メインページ
メインページ
00SoLa00
※この記事はメインページです。最新記事は下記の《更新情報》よりクリック。
☆★☆★☆★☆★☆★
《更新情報》
03/05 第9話
☆★☆★☆★☆★☆★
《現在公開中の作品》
〇『世界最強の魔法使いが出来上がるまで』
→こちらからどうぞ
※中条聖夜の師匠、リナリー・エヴァンスの学生時代のお話です。
※超不定期更新です。
〇『テレポーター』
→こちらからどうぞ。
第1章 中条聖夜の帰国編
第2章 魔法選抜試験編〈上〉
第2章 魔法選抜試験編〈下〉
第3章 魔法文化祭編〈上〉
第3章 魔法文化祭編〈下〉
第4章 スペードからの挑戦状編〈上〉
第4章 スペードからの挑戦状編〈中〉
第4章 スペードからの挑戦状編〈下〉
第5章 生徒会選挙編
第6章 純白の円卓と痛みの塔編
第7章 異能力者たちの饗宴編
第8章 エンブレム争奪戦編
〇[Teleporter]
→こちらからどうぞ。
※この作品は、『テレポーター』第1章のIF編です。
〇『「こがねいろのせんりつ」のにちじょー』ss
そのいち
そのに(未完成)
☆★☆★☆★☆★☆★
※この記事はメインページです。最新記事は下記の《更新情報》よりクリック。
☆★☆★☆★☆★☆★
《更新情報》
03/05 第9話
☆★☆★☆★☆★☆★
《現在公開中の作品》
〇『世界最強の魔法使いが出来上がるまで』
→こちらからどうぞ
※中条聖夜の師匠、リナリー・エヴァンスの学生時代のお話です。
※超不定期更新です。
〇『テレポーター』
→こちらからどうぞ。
第1章 中条聖夜の帰国編
第2章 魔法選抜試験編〈上〉
第2章 魔法選抜試験編〈下〉
第3章 魔法文化祭編〈上〉
第3章 魔法文化祭編〈下〉
第4章 スペードからの挑戦状編〈上〉
第4章 スペードからの挑戦状編〈中〉
第4章 スペードからの挑戦状編〈下〉
第5章 生徒会選挙編
第6章 純白の円卓と痛みの塔編
第7章 異能力者たちの饗宴編
第8章 エンブレム争奪戦編
〇[Teleporter]
→こちらからどうぞ。
※この作品は、『テレポーター』第1章のIF編です。
〇『「こがねいろのせんりつ」のにちじょー』ss
そのいち
そのに(未完成)
☆★☆★☆★☆★☆★
PR
過去編リナリーssのページ
テレポーター
【世界最強の魔法使いが出来上がるまで】
アメリカ合衆国の一角にある魔法使いの国、魔法世界エルトクリア。そこには、まさに天才と呼ぶに相応しい才能を持った少女が暮らしていた。魔法世界における唯一の教育機関・エルトクリア魔法学習院への入学を拒否し、頑なに生まれ育った孤児院に閉じこもっていた少女。しかし、その孤児院に1人の大魔法使いが訪ねてきたことで、少女の生活は一変する。後に世界最強と謳われ、その名を知らぬ者などいないほどの大魔法使いになる少女リナリー・エヴァンス。彼女の伝説は、まさにここから始まった。
※超不定期更新です。途中で更新が止まる可能性もあります。
※ルビが正常に機能していないのは仕様です。ご容赦ください。
第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
アメリカ合衆国の一角にある魔法使いの国、魔法世界エルトクリア。そこには、まさに天才と呼ぶに相応しい才能を持った少女が暮らしていた。魔法世界における唯一の教育機関・エルトクリア魔法学習院への入学を拒否し、頑なに生まれ育った孤児院に閉じこもっていた少女。しかし、その孤児院に1人の大魔法使いが訪ねてきたことで、少女の生活は一変する。後に世界最強と謳われ、その名を知らぬ者などいないほどの大魔法使いになる少女リナリー・エヴァンス。彼女の伝説は、まさにここから始まった。
※超不定期更新です。途中で更新が止まる可能性もあります。
※ルビが正常に機能していないのは仕様です。ご容赦ください。
第1話
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話
第7話
第8話
第9話
リナリーss第8話
テレポーター
☆三行でまとまる、これまでのお話☆
リナリー「いっぱい契約できた。まんぞく」
担任教師「ほっほっほ」
契約科教師「祭りじゃあああ!」→絶賛継続中
※
属性付加という技法がある。
それは読んで字の如く、魔法に属性を付加するということだ。無属性魔法(何の属性も持たない魔法の総称)よりも難度の高い技だが、それ故に付与された属性に準ずる独自の強さを発揮する。一般的に、付与できると言われている属性は7つ。『火』『風』『雷』『土』『水』『光』『闇』である。他にもいくつか確認されてはいるが、それは魔法使いの中でもある特別な血族たちでしか扱えておらず、そのメカニズムは不明である。よって、ここでは先に挙げた上記7つについての説明だけに留めたい。
下記に記すのが各々の特徴、そして強弱についてである。
【基本五大属性】
『火』(『風』に強いが、『水』に弱い)
攻撃系の魔法に特化する。
回復、防御、操作、移動、視覚、回帰、重力、捕縛に適さない。
『風』(『雷』に強いが、『火』に弱い)
移動系の魔法を得意とする。また、攻撃にも優れる。
回復、回帰に適さない。
『雷』(『土』に強いが、『風』に弱い)
操作系の魔法を得意とする。また、攻撃、移動にも優れる。
防御、視覚、回帰、重力に適さない。
『土』(『水』に強いが、『雷』に弱い)
防御系の魔法を得意とする。また、攻撃にも優れる。
移動、視覚、回帰、重力に適さない。
『水』(『火』に強いが、『土』に弱い)
回復系の魔法を得意とする。
操作、移動、視覚、回帰、重力に適さない。
【特殊二大属性】
『光』(『闇』に弱い。『闇』を除く全ての属性に強弱関係は生じない)
視覚系・回帰系の魔法を得意とする。
闇との合成ができない(無属性へと戻ってしまう為)
『闇』(『光』に弱い。『光』を除く全ての属性に強弱関係は生じない)
重力系・捕縛系の魔法を得意とする。
光との合成ができない(無属性へと戻ってしまう為)
もちろん、適さないと記されてはいるものの、絶対に扱えないというわけではない。
例えば火属性で回復、防御、操作、移動、視覚、回帰、重力が絶対に使えないとは言い切れない。
但し、それはその属性の限りなく極みまで上り詰めた者でなければ実用はできないだろう。特に『火』の「特化」とは、そういう意味合いも込めて使用されている。全ての属性には、それぞれの長所・欠点があるというわけだ。
※
リナリーと契約詠唱科8年の担任教師であるティチャード・ルーカスは、魔法具と契約してご満悦なリナリーを連れて契約詠唱科の塔にある実習室の1つを訪れていた。
「本格的な魔法発現の練習は明日からの授業に回すとして、じゃ。試し打ちはしてみたいじゃろ?」
「はい」
そわそわとした雰囲気を隠そうともせずにリナリーが頷く。リナリーがここまで感情を表に表すのは珍しいことだったのだが、まだ付き合いの浅いルーカスはそれに気付かない。年相応の態度に深い皺の刻まれた頬を緩めながら、ルーカスは問う。
「呪文詠唱と契約詠唱を問わず、詠唱方式にはいくつかの種類がある。答えられるかの」
「はい。『完全詠唱』、『省略詠唱』、『直接詠唱』、そして『無詠唱』です」
「それぞれの方式の違いは?」
「『完全詠唱』とは詠唱文を全て唱え切る方式、『省略詠唱』は一部の詠唱文を省略する方式、『直接詠唱』は最後の一単語、魔法名のみを詠唱する方式、そして『無詠唱』は一切の詠唱をせずに魔法を発現する方式です」
「詠唱を省略することによって受けるメリットとデメリットは?」
「詠唱を省略することで、魔法を素早く発現することができます。しかし、詠唱文を省略すればするほど魔法の威力は弱くなります」
「満点じゃ」
満足そうに頷くルーカスに、リナリーは会釈で返した。
「学習院に来るまでは呪文詠唱方式であったと聞いておるが……、エヴァンスはどの程度まで詠唱を省略できたのじゃ?」
「『完全詠唱』を除く、残り全ての詠唱方式での発現が可能です」
「……ん?」
その答えにルーカスは眉を吊り上げた。
それもそのはず。
詠唱方式の難易度としては、詠唱文全てを唱え切る『完全詠唱』が一番易しく、以降詠唱文を省略すればするほど難易度が上がる。よって、詠唱文全てを省略する『無詠唱』が難しい。
しかしリナリーは、難易度としては一番易しいはずの『完全詠唱』ができないと言った。
つまり、それを意味するところとは。
「まさかお主、始動キーが無いのか?」
「その通りです」
ケロリとそう答えるリナリーに、ルーカスは思わず目を見開いた。
呪文詠唱方式における「始動キー」とは、詠唱者の体内に眠る魔力を循環・活性化させるためのものであり、これによって活性化した魔力を後に唱える「放出キー」によって魔法という形に変化・形成させる。
この「始動キー」は個々人によって変わるため、オリジナルの詠唱文を構築する必要があるのだが、リナリーにはそれが無いという。つまりリナリーは、「始動キー」による支援を受けずに魔力を活性化させて魔法を発現していたことになる。
熟練の魔法使いならばそれも可能だろう。しかし、まったく使用せずに新しい魔法を取得することは難しい。やはりどのような魔法であってもまずは『完全詠唱』で習得し、徐々に詠唱文を削って慣らしていくものだ。
リナリーの持つ規格外の才能に思わず身体を震わせながらも、ルーカスは気を取り直して説明を再開する。
「ふむ。呪文詠唱方式では、『始動キー』と『放出キー』を組み合わせることで魔法を発現させることが一般的じゃ。前者で体内の魔力を活性化させ、後者でその魔力を魔法へと変化させるということじゃな」
その説明にリナリーが頷く。
「対して契約詠唱方式で使われるキーは、『契約キー』と『発現キー』という。発現方式が異なる以上、2つのキーの役割も呪文詠唱方式とは異なる。『契約キー』で世界の理へと働きかけ発現する魔法の属性を決定、『発現キー』で魔力を供給、具体的にどの魔法を発現させるかを決定することになるのじゃ。詠唱を省略する難易度は……、契約詠唱の方が難しいじゃろうな」
自分の説明にリナリーがしっかりついてきていることを確認し、ルーカスは手にしていた紙にさらさらと文字を書いていく。
「まあ、言葉で説明するよりも実際にやってみた方が理解も早いじゃろう。まずは『完全詠唱』から行こうかの」
【契約キー】
『獄炎に坐す怒りの王よ、我と古の契約を』(完全詠唱はここから)
【発現キー】
『万物を燃やす原初の火よ』(省略詠唱〈省略1段階〉はここから)
『司る精霊よ』(ここで発現する魔法の数を指定できる)
『飛翔、焔、敵を貫け』(省略詠唱〈省略2段階〉はここから)
『火の球』(直接詠唱はここから)
ルーカスが詠唱方式の詳細をメモした紙をリナリーに渡す。
「そこに書いたのは火属性の魔法球『|火の球《ファイン》』の詠唱文じゃ」
「はい」
「では、やってみようかの」
「分かりました」
ルーカスが離れたことを確認し、リナリーが精神を集中させる。
この魔法実習室は、魔法などの攻撃を受けても破壊されないよう頑丈に、そして魔力に対する対抗力が特に高い素材が使用されている。だからこそ、まさに試し打ちにはもってこいの場所だった。
まずは、詠唱文を全て唱え切る『完全詠唱』。
「『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』」
契約キーを唱え、これから発現する魔法の属性を火属性だと決定する。
「『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』」
次に発現キー。これで具体的に発現する魔法を決定する。
「『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』」
リナリーが、誰もいない一点に向けて手のひらを掲げた。
そして唱える、魔法名。
「『|火の球《ファイン》』」
体内からずるりと魔力が抜けていく感覚。
普段よりも魔力消費が激しいな、とリナリーは感じた。
直後に、異変。
これまで。
リナリーは魔法を発現するに辺り、『完全詠唱』という方式を使ったことがなかった。なぜなら、呪文詠唱方式に従い魔法を発現していた時は、始動キーと呼ばれる詠唱文を用意していなかったからである。
しかし、今回。
リナリーは契約詠唱方式に手を出すことで、『完全詠唱』方式を使用することが可能となった。
詠唱文を省略せず、唱え切れば魔法の威力は上がる。
省略すればするほど、発現速度と引き換えに魔法の威力は下がる。
常日頃から、本来の威力とは遠く及ばない発現方式で魔法の練習をしていたリナリー。
そのリナリーが、今回初めて『完全詠唱』で魔法を発現した。
その結果は。
「――――え」
リナリーの右肩付近。
さっきまで少し肌寒く感じていたはずの訓練場。
にも拘わらず。
熱として皮膚は感知せず、リナリーの脳を一番最初に貫いたのは痛みだった。
視界がオレンジ色に染まる。
さっきまで何も無かった空間に、突如として出現した莫大なるエネルギー。
身体が傾き、そのエネルギー源へと目が行く。
まるで、
太陽のような、
灼熱の塊だった。
「――――っ!?」
咄嗟に距離を空ける。
条件反射。
新しく習得した契約詠唱ではなく、慣れ親しんだ呪文詠唱で。
「『|激流の壁《バブリア》』!!」
魔法名のみで魔法を発現する『直接詠唱』。
本来ならば詠唱文を一切詠唱しない『無詠唱』で発現するそれを、リナリーは『直接詠唱』で発現することで枚数と威力の底上げを図った。
30枚。
水属性の障壁が、リナリーの制御から外れ暴走直前の状態となっている『|火の球《ファイン》』の周囲を囲うように展開される。その外側を更に覆うように、同じく水属性の障壁魔法『|激流の壁《バブリア》』がルーカスから発現される。その数は20枚。
直後に、爆発。
リナリーとルーカスが発現した計50枚の障壁の中心部で、『|火の球《ファイン》』が原型を失い炸裂した。
RankCの魔法球とRankBの障壁。
そして、属性優劣の関係で火属性に強い水属性の障壁。
本来ならば、個数が1対1であったとしても余裕で水属性の障壁魔法『|激流の壁《バブリア》』が防ぎ切る。そう、本来ならば。
しかし、炸裂したのはあのリナリーが『完全詠唱』で発現した『|火の球《ファイン》』である。
凄まじい衝撃音と共に、内側から次々と障壁が砕け散る。リナリーとルーカスが『無詠唱』で障壁を更に展開していく。もともとあった障壁全てを吹き飛ばし、新たに発現された障壁数枚を破壊したところで、ようやく暴走状態にあった『|火の球《ファイン》』は効力を失い霧散した。
演習室に静寂が戻る。
居心地が悪そうに自らの様子を窺ってくるリナリーを余所に、ルーカスの胸中にあるのは驚愕、ただそれだけだった。
リナリーが契約詠唱によって発現したのは、属性を付加させた魔法球の中では最低ランクの魔法だ。攻撃特化の火属性だったとはいえ、それを防ぐために発現したのは属性優位に立つ水属性の障壁魔法。それもRankCの魔法球相手にRankBの障壁魔法を発現した。最初は50枚も。
それら全てを軽々と吹き飛ばし、追加の障壁を用意していなければ余波が演習室中に吹き荒れていたであろうことを考えると、ルーカスは驚愕を隠せない。
属性付加させた最低ランクの魔法でこれである。
確かに契約詠唱で魔法を発現するのは初めてだ。『完全詠唱』で魔法を発現するのも初めてだと言う。慣れていない作業なのだから、魔力が過剰に供給されることもあるかもしれない。しかし、今起こった現象は、ちょっとした手違いでは済まされない威力の魔法発現だった。手練れの魔法使いが全力で魔力を込めたって、同じ魔法で同じ現象は起こせないだろう。
それを、編入初日の8年生の院生が実現したのだ。
「ほっほっほ」
意図せずにして、笑い声が漏れた。
ルーカスは笑う。
自らの目の前で、肩身が狭そうにして立つ1人の少女を見て。
天才だ。
ルーカスがこれまで生きてきた中で、見たことも無いほどの才能を秘めている。
だからこそ、ルーカスは思う。
その力を持て余さぬよう、制御する術を身につけさせなければいけない、と。
その力を向ける先を見誤らぬよう、正しく導いてやらなければいけない、と。
上目遣いで見つめてくるリナリーの頭に手を乗せ、ルーカスは柔らかな声で言う。
「さて、落ち着いたら再開するかの。まずは『完全詠唱』で制御できねば話にならんぞい」
リナリー「いっぱい契約できた。まんぞく」
担任教師「ほっほっほ」
契約科教師「祭りじゃあああ!」→絶賛継続中
※
属性付加という技法がある。
それは読んで字の如く、魔法に属性を付加するということだ。無属性魔法(何の属性も持たない魔法の総称)よりも難度の高い技だが、それ故に付与された属性に準ずる独自の強さを発揮する。一般的に、付与できると言われている属性は7つ。『火』『風』『雷』『土』『水』『光』『闇』である。他にもいくつか確認されてはいるが、それは魔法使いの中でもある特別な血族たちでしか扱えておらず、そのメカニズムは不明である。よって、ここでは先に挙げた上記7つについての説明だけに留めたい。
下記に記すのが各々の特徴、そして強弱についてである。
【基本五大属性】
『火』(『風』に強いが、『水』に弱い)
攻撃系の魔法に特化する。
回復、防御、操作、移動、視覚、回帰、重力、捕縛に適さない。
『風』(『雷』に強いが、『火』に弱い)
移動系の魔法を得意とする。また、攻撃にも優れる。
回復、回帰に適さない。
『雷』(『土』に強いが、『風』に弱い)
操作系の魔法を得意とする。また、攻撃、移動にも優れる。
防御、視覚、回帰、重力に適さない。
『土』(『水』に強いが、『雷』に弱い)
防御系の魔法を得意とする。また、攻撃にも優れる。
移動、視覚、回帰、重力に適さない。
『水』(『火』に強いが、『土』に弱い)
回復系の魔法を得意とする。
操作、移動、視覚、回帰、重力に適さない。
【特殊二大属性】
『光』(『闇』に弱い。『闇』を除く全ての属性に強弱関係は生じない)
視覚系・回帰系の魔法を得意とする。
闇との合成ができない(無属性へと戻ってしまう為)
『闇』(『光』に弱い。『光』を除く全ての属性に強弱関係は生じない)
重力系・捕縛系の魔法を得意とする。
光との合成ができない(無属性へと戻ってしまう為)
もちろん、適さないと記されてはいるものの、絶対に扱えないというわけではない。
例えば火属性で回復、防御、操作、移動、視覚、回帰、重力が絶対に使えないとは言い切れない。
但し、それはその属性の限りなく極みまで上り詰めた者でなければ実用はできないだろう。特に『火』の「特化」とは、そういう意味合いも込めて使用されている。全ての属性には、それぞれの長所・欠点があるというわけだ。
※
リナリーと契約詠唱科8年の担任教師であるティチャード・ルーカスは、魔法具と契約してご満悦なリナリーを連れて契約詠唱科の塔にある実習室の1つを訪れていた。
「本格的な魔法発現の練習は明日からの授業に回すとして、じゃ。試し打ちはしてみたいじゃろ?」
「はい」
そわそわとした雰囲気を隠そうともせずにリナリーが頷く。リナリーがここまで感情を表に表すのは珍しいことだったのだが、まだ付き合いの浅いルーカスはそれに気付かない。年相応の態度に深い皺の刻まれた頬を緩めながら、ルーカスは問う。
「呪文詠唱と契約詠唱を問わず、詠唱方式にはいくつかの種類がある。答えられるかの」
「はい。『完全詠唱』、『省略詠唱』、『直接詠唱』、そして『無詠唱』です」
「それぞれの方式の違いは?」
「『完全詠唱』とは詠唱文を全て唱え切る方式、『省略詠唱』は一部の詠唱文を省略する方式、『直接詠唱』は最後の一単語、魔法名のみを詠唱する方式、そして『無詠唱』は一切の詠唱をせずに魔法を発現する方式です」
「詠唱を省略することによって受けるメリットとデメリットは?」
「詠唱を省略することで、魔法を素早く発現することができます。しかし、詠唱文を省略すればするほど魔法の威力は弱くなります」
「満点じゃ」
満足そうに頷くルーカスに、リナリーは会釈で返した。
「学習院に来るまでは呪文詠唱方式であったと聞いておるが……、エヴァンスはどの程度まで詠唱を省略できたのじゃ?」
「『完全詠唱』を除く、残り全ての詠唱方式での発現が可能です」
「……ん?」
その答えにルーカスは眉を吊り上げた。
それもそのはず。
詠唱方式の難易度としては、詠唱文全てを唱え切る『完全詠唱』が一番易しく、以降詠唱文を省略すればするほど難易度が上がる。よって、詠唱文全てを省略する『無詠唱』が難しい。
しかしリナリーは、難易度としては一番易しいはずの『完全詠唱』ができないと言った。
つまり、それを意味するところとは。
「まさかお主、始動キーが無いのか?」
「その通りです」
ケロリとそう答えるリナリーに、ルーカスは思わず目を見開いた。
呪文詠唱方式における「始動キー」とは、詠唱者の体内に眠る魔力を循環・活性化させるためのものであり、これによって活性化した魔力を後に唱える「放出キー」によって魔法という形に変化・形成させる。
この「始動キー」は個々人によって変わるため、オリジナルの詠唱文を構築する必要があるのだが、リナリーにはそれが無いという。つまりリナリーは、「始動キー」による支援を受けずに魔力を活性化させて魔法を発現していたことになる。
熟練の魔法使いならばそれも可能だろう。しかし、まったく使用せずに新しい魔法を取得することは難しい。やはりどのような魔法であってもまずは『完全詠唱』で習得し、徐々に詠唱文を削って慣らしていくものだ。
リナリーの持つ規格外の才能に思わず身体を震わせながらも、ルーカスは気を取り直して説明を再開する。
「ふむ。呪文詠唱方式では、『始動キー』と『放出キー』を組み合わせることで魔法を発現させることが一般的じゃ。前者で体内の魔力を活性化させ、後者でその魔力を魔法へと変化させるということじゃな」
その説明にリナリーが頷く。
「対して契約詠唱方式で使われるキーは、『契約キー』と『発現キー』という。発現方式が異なる以上、2つのキーの役割も呪文詠唱方式とは異なる。『契約キー』で世界の理へと働きかけ発現する魔法の属性を決定、『発現キー』で魔力を供給、具体的にどの魔法を発現させるかを決定することになるのじゃ。詠唱を省略する難易度は……、契約詠唱の方が難しいじゃろうな」
自分の説明にリナリーがしっかりついてきていることを確認し、ルーカスは手にしていた紙にさらさらと文字を書いていく。
「まあ、言葉で説明するよりも実際にやってみた方が理解も早いじゃろう。まずは『完全詠唱』から行こうかの」
【契約キー】
『獄炎に坐す怒りの王よ、我と古の契約を』(完全詠唱はここから)
【発現キー】
『万物を燃やす原初の火よ』(省略詠唱〈省略1段階〉はここから)
『司る精霊よ』(ここで発現する魔法の数を指定できる)
『飛翔、焔、敵を貫け』(省略詠唱〈省略2段階〉はここから)
『火の球』(直接詠唱はここから)
ルーカスが詠唱方式の詳細をメモした紙をリナリーに渡す。
「そこに書いたのは火属性の魔法球『|火の球《ファイン》』の詠唱文じゃ」
「はい」
「では、やってみようかの」
「分かりました」
ルーカスが離れたことを確認し、リナリーが精神を集中させる。
この魔法実習室は、魔法などの攻撃を受けても破壊されないよう頑丈に、そして魔力に対する対抗力が特に高い素材が使用されている。だからこそ、まさに試し打ちにはもってこいの場所だった。
まずは、詠唱文を全て唱え切る『完全詠唱』。
「『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』」
契約キーを唱え、これから発現する魔法の属性を火属性だと決定する。
「『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』」
次に発現キー。これで具体的に発現する魔法を決定する。
「『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』」
リナリーが、誰もいない一点に向けて手のひらを掲げた。
そして唱える、魔法名。
「『|火の球《ファイン》』」
体内からずるりと魔力が抜けていく感覚。
普段よりも魔力消費が激しいな、とリナリーは感じた。
直後に、異変。
これまで。
リナリーは魔法を発現するに辺り、『完全詠唱』という方式を使ったことがなかった。なぜなら、呪文詠唱方式に従い魔法を発現していた時は、始動キーと呼ばれる詠唱文を用意していなかったからである。
しかし、今回。
リナリーは契約詠唱方式に手を出すことで、『完全詠唱』方式を使用することが可能となった。
詠唱文を省略せず、唱え切れば魔法の威力は上がる。
省略すればするほど、発現速度と引き換えに魔法の威力は下がる。
常日頃から、本来の威力とは遠く及ばない発現方式で魔法の練習をしていたリナリー。
そのリナリーが、今回初めて『完全詠唱』で魔法を発現した。
その結果は。
「――――え」
リナリーの右肩付近。
さっきまで少し肌寒く感じていたはずの訓練場。
にも拘わらず。
熱として皮膚は感知せず、リナリーの脳を一番最初に貫いたのは痛みだった。
視界がオレンジ色に染まる。
さっきまで何も無かった空間に、突如として出現した莫大なるエネルギー。
身体が傾き、そのエネルギー源へと目が行く。
まるで、
太陽のような、
灼熱の塊だった。
「――――っ!?」
咄嗟に距離を空ける。
条件反射。
新しく習得した契約詠唱ではなく、慣れ親しんだ呪文詠唱で。
「『|激流の壁《バブリア》』!!」
魔法名のみで魔法を発現する『直接詠唱』。
本来ならば詠唱文を一切詠唱しない『無詠唱』で発現するそれを、リナリーは『直接詠唱』で発現することで枚数と威力の底上げを図った。
30枚。
水属性の障壁が、リナリーの制御から外れ暴走直前の状態となっている『|火の球《ファイン》』の周囲を囲うように展開される。その外側を更に覆うように、同じく水属性の障壁魔法『|激流の壁《バブリア》』がルーカスから発現される。その数は20枚。
直後に、爆発。
リナリーとルーカスが発現した計50枚の障壁の中心部で、『|火の球《ファイン》』が原型を失い炸裂した。
RankCの魔法球とRankBの障壁。
そして、属性優劣の関係で火属性に強い水属性の障壁。
本来ならば、個数が1対1であったとしても余裕で水属性の障壁魔法『|激流の壁《バブリア》』が防ぎ切る。そう、本来ならば。
しかし、炸裂したのはあのリナリーが『完全詠唱』で発現した『|火の球《ファイン》』である。
凄まじい衝撃音と共に、内側から次々と障壁が砕け散る。リナリーとルーカスが『無詠唱』で障壁を更に展開していく。もともとあった障壁全てを吹き飛ばし、新たに発現された障壁数枚を破壊したところで、ようやく暴走状態にあった『|火の球《ファイン》』は効力を失い霧散した。
演習室に静寂が戻る。
居心地が悪そうに自らの様子を窺ってくるリナリーを余所に、ルーカスの胸中にあるのは驚愕、ただそれだけだった。
リナリーが契約詠唱によって発現したのは、属性を付加させた魔法球の中では最低ランクの魔法だ。攻撃特化の火属性だったとはいえ、それを防ぐために発現したのは属性優位に立つ水属性の障壁魔法。それもRankCの魔法球相手にRankBの障壁魔法を発現した。最初は50枚も。
それら全てを軽々と吹き飛ばし、追加の障壁を用意していなければ余波が演習室中に吹き荒れていたであろうことを考えると、ルーカスは驚愕を隠せない。
属性付加させた最低ランクの魔法でこれである。
確かに契約詠唱で魔法を発現するのは初めてだ。『完全詠唱』で魔法を発現するのも初めてだと言う。慣れていない作業なのだから、魔力が過剰に供給されることもあるかもしれない。しかし、今起こった現象は、ちょっとした手違いでは済まされない威力の魔法発現だった。手練れの魔法使いが全力で魔力を込めたって、同じ魔法で同じ現象は起こせないだろう。
それを、編入初日の8年生の院生が実現したのだ。
「ほっほっほ」
意図せずにして、笑い声が漏れた。
ルーカスは笑う。
自らの目の前で、肩身が狭そうにして立つ1人の少女を見て。
天才だ。
ルーカスがこれまで生きてきた中で、見たことも無いほどの才能を秘めている。
だからこそ、ルーカスは思う。
その力を持て余さぬよう、制御する術を身につけさせなければいけない、と。
その力を向ける先を見誤らぬよう、正しく導いてやらなければいけない、と。
上目遣いで見つめてくるリナリーの頭に手を乗せ、ルーカスは柔らかな声で言う。
「さて、落ち着いたら再開するかの。まずは『完全詠唱』で制御できねば話にならんぞい」
リナリーss第9話
テレポーター
☆三行でまとまる、これまでのお話☆
リナリー「火の球って初球のわりに強かったのね。見直したわ」
ルーカス「ほっほっほ」
契約科教師「祭りじゃあああ!」→絶賛継続中
※
「ふむ。解除していいぞい」
ルーカスの指示に従い、リナリーは浮かべていた『|火の球《ファイン》』を霧散させた。目で評価を問うてくるリナリーに、ルーカスは大きく頷いた。
暴走させた後にもう一度『完全詠唱』で発現させたところ、魔法は暴走することなく見事に制御されていた。たまたまできた、と言う可能性も考慮し続けて2回ほど『完全詠唱』で発現させたが、これも全て完璧。リナリーは『|火の球《ファイン》』を完璧に使いこなしていた。
(末恐ろしいまでの才能、じゃな)
内心でルーカスは戦慄する。
一度目はあくまで『完全詠唱』という初めての方式故に、魔力をどれだけつぎ込んでいいか分からなかったということなのだろう。その一度だけで感覚を掴んでしまうあたり、天才と表現する他無い。
「それでは、次は『完全詠唱』で発現する数を増やしてみようかの」
これまでリナリーが発現してきたのは魔法球単体だった。魔法は、詠唱の段階で発現する魔法の威力と数を指定することができる。もっとも、リナリーは呪文詠唱方式ならばいくらでも発現していたわけだが。
ルーカスが、先ほどリナリーに見せていたメモを再度取り出す。
【契約キー】
『獄炎に坐す怒りの王よ、我と古の契約を』(完全詠唱はここから)
【発現キー】
『万物を燃やす原初の火よ』(省略詠唱はここから)
『司る精霊よ』(ここで発現する魔法の数を指定できる)
『飛翔、焔、敵を貫け』
『火の球』(直接詠唱はここから)
「契約詠唱方式で数を指定する場合、詠唱文にある精霊という単語の前に、発現したい数を入れる。つまり2つの魔法球を発現したいのなら『司る2の精霊よ』となるわけじゃな」
「なるほど。やってみてもよろしいですか」
「うむ。まだ詠唱を破棄することは禁止する。『完全詠唱』で頼むぞい」
頷いたリナリーが詠唱文を唱える。
「『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』、『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る100の|精霊《せいれい》よ』」
「ん?」
「『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』」
魔法はリナリーの詠唱文に忠実に応えた。
リナリーの頭上、そして背後に100発の『|火の球《ファイン》』が発現される。
当然、驚いたのはルーカスだ。
「ちょ」
「へぇ、こうして数を指定するのですね。明快で分かりやすい。果たしてどのくらいの数を一度に発現できるかについては興味あるわね。……どうかされましたか」
自らの周囲に浮かぶ『|火の球《ファイン》』の群れを見渡しながら満足そうに頷くリナリーは、咄嗟に障壁魔法を展開しようと身構えたまま硬直してしまっているルーカスにようやく気が付いた。
「先生?」
「……う、うむ。エヴァンスや。それらはしっかりと制御できておるのじゃな?」
「もちろんです。先ほどはみっともない姿をお見せしましたが、『完全詠唱』での魔法発現の感覚は掴めました。暴走の心配は無いと思われます」
「そ、そうか。ならいいんじゃが……」
例えで口にした通り、ルーカスはてっきり2発の魔法球を同時発現すると思っていたのだ。確かに数を指定しなかったルーカスが悪い。しかし、契約詠唱方式で初めての数指定の練習で、いきなり100発も発現するとは考えもしないだろう。
そもそも、例え『完全詠唱』したとして100発も一気に発現できる魔法使いが果たして何人この学習院にいるというのか。少なくとも院生の中にはいないだろう。いや、たった今、ルーカスの目の前にいることが判明したわけだが。
指を鳴らして全ての『|火の球《ファイン》』を霧散させたリナリーは言う。
「私としては数の指定についても問題無いと思うのですが……、もっと数を増やしてみましょうか?」
肯定したらいったい何百発の魔法球を発現するつもりだ。
そんな言葉を必死に呑み込んで、ルーカスは首を横に振る。
「い、いや、それには及ばんぞい。うむ。次は詠唱文を徐々に破棄していくかの」
「分かりました」
ルーカスの動揺を余所に、リナリーは淡々と頷いた。
「『省略詠唱』、『直接詠唱』、そして最後に『無詠唱』という順番でよろしいですか」
「うむ」
本来、詠唱文を破棄して魔法を発現するには相当な修練が必要だ。契約キーを省略するだけでも年単位の修練を必要とする魔法使いだっているし、生涯にわたって修練したところで『無詠唱』で魔法を発現できない魔法使いだっている。発現する魔法の難易度によって異なるものではあるが、簡単に実現できる技術では無い。
詠唱文を省略すればするほど、魔法の発現難度は上がる。しかし、リナリーは既に全てをここで実現する気でいる。しかも口調からして「順番にローテーションで回していきますね」程度のノリだ。
ルーカスはそれを指摘しなかった。
もはや「こいつなら普通に出来ちゃうんだろうな」くらいに思っている。
「『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』、『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』」
そして、リナリーは本当にさっくりと『省略詠唱』を成功させた。
契約キーを省略した魔法の発現。詠唱文の一部を省略することで発現速度を上げる代わりに、発現難度が上がり威力が下がる高等技法。
「うむ、問題無いようじゃな」
リナリーの頭上に浮かぶオレンジ色をした『|火の球《ファイン》』に、ルーカスがそう評価する。
「ありがとうございます。では、次に行きます」
言葉通り、成功した感慨に浸ることもなく、リナリーは淡々と魔法を霧散させる。
「『|火の球《ファイン》』」
そして『直接詠唱』を成功させた。
対象となる魔法名のみを唱えることで発現させる高等技術。『省略詠唱』より発現速度が早いことの代償に、発現難度はより上がり威力はより下がる。
「……問題無いようじゃな」
「ありがとうございます」
ルーカスの評価に軽く頭を下げたリナリーは、浮かんでいた『|火の球《ファイン》』を霧散させた。そして、その直後、同じ場所に新たな『|火の球《ファイン》』が生まれた。瞬き1つの間に起こった出来事である。
ルーカスは数度目をぱちぱちとさせた後、草臥れた拍手を送った。
「そして『無詠唱』じゃな。うむ、何の問題も無いようじゃ」
「ありがとうございます」
浮かんでいた『|火の球《ファイン》』がリナリーの手によって消える。
「『直接詠唱』と『無詠唱』を既に成功させているお主には、もはや必要無い説明とは思うが、一応話しておくぞい。メモを見ておくれ」
リナリーに『|火の球《ファイン》』の契約詠唱文が書かれていたメモを見せる。
「『省略詠唱』についてじゃが、詠唱文を省略するにあたり、精霊までの文はあくまで数を指定する際にイメージしやすいようにするためじゃ。そのため、慣れてくるとその部分も省略し『飛翔、焔』という文から唱えることが多くなる。さらに慣れてくると魔法名のみで発現する『直接詠唱』に移る、というわけじゃな」
「精霊までの詠唱文を省略しても『省略詠唱』の威力は落ちないと?」
「うむ。これまの研究結果ではそうなっておるし、わし自身そう実感しておる」
「なるほど。……『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』、『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』、……『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』、……確かに、知覚できる範囲で威力が落ちているようには思えませんね」
「そ、そうか。ならよかったわい」
何が良かったのか、もはやルーカスには分からなかった。ポンポン『|火の球《ファイン》』を発現しては消していくリナリーの才能に、もはや呆れるしかない。
ただ、ひとまず今日リナリーに教えておこうと思っていたことについては、全て終わらせることができたと判断した。もっとも、今日は基本的に口頭での説明だけで『完全詠唱』を何度か試させて、少しでも感覚を掴んでもらえるといいな、くらいの考えだったわけだが。
まさか今日で『無詠唱』まで辿り着かれるとは思わなかった。そもそも学習院卒業までの間に『無詠唱』を実現できない院生だっているくらいなのだから。
「これで今日教えることはおしまいかの。ようやったの、エヴァンス」
「色々と勉強になりました。ありがとうございます。魔法の新しい一面に触れられるというのは、実に胸躍るものですね。契約詠唱科を専攻して良かったと思っています」
「そうかそうか。それはなりよりじゃわい。魔法とは実に奥深いもの。今後とも精進するようにの」
「はい。それと、今日契約させて頂いた魔法を発現してみたいのですが、よろしいでしょうか」
時計を確認しつつ、ルーカスは悩む。
そろそろ日も暮れるし、リナリーは結構な魔力を使ったはずだ。なにせ途中で100発の魔法球を発現したくらいだ。発現した時点で魔力は消費しているので、射出せずに霧散させたところで消費した魔力は返ってこない。それに、契約詠唱方式は呪文詠唱方式よりも魔力消費が激しい。初めての方式でもあったわけだし、魔力消費もそうだが気疲れもしているのでは、とルーカスは思ったのだが……。
横目でちらりと窺ってみても、リナリーに疲弊した様子は無い。
そういえば編入試験の実技では計測ミスかと思われるような数値が並んでいたな、なんてことを思い出しながら、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「構わぬよ。存分に試すが良い」
新しい魔法と契約したのなら、試してみたいと思うのは当たり前の感情だ。リナリーの魔法に対する渇望は、ルーカスにとっても実に好ましいものだった。それに、自分の目が届かない場所でこっそり試されて魔法が暴走してしまえば目も当てられない。
ここで発現に慣れてくれるのなら、それに越したことは無いだろう。
ルーカスはそう思った。
花が綻ぶような笑みを浮かべてお礼を口にし、自分から距離を空けて早速魔法を試し始めるリナリーを、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべたまま見続けた。
そして。
この日のうちにリナリーは、魔法具と契約した計18の魔法その全てを完全に習得した。
リナリー「火の球って初球のわりに強かったのね。見直したわ」
ルーカス「ほっほっほ」
契約科教師「祭りじゃあああ!」→絶賛継続中
※
「ふむ。解除していいぞい」
ルーカスの指示に従い、リナリーは浮かべていた『|火の球《ファイン》』を霧散させた。目で評価を問うてくるリナリーに、ルーカスは大きく頷いた。
暴走させた後にもう一度『完全詠唱』で発現させたところ、魔法は暴走することなく見事に制御されていた。たまたまできた、と言う可能性も考慮し続けて2回ほど『完全詠唱』で発現させたが、これも全て完璧。リナリーは『|火の球《ファイン》』を完璧に使いこなしていた。
(末恐ろしいまでの才能、じゃな)
内心でルーカスは戦慄する。
一度目はあくまで『完全詠唱』という初めての方式故に、魔力をどれだけつぎ込んでいいか分からなかったということなのだろう。その一度だけで感覚を掴んでしまうあたり、天才と表現する他無い。
「それでは、次は『完全詠唱』で発現する数を増やしてみようかの」
これまでリナリーが発現してきたのは魔法球単体だった。魔法は、詠唱の段階で発現する魔法の威力と数を指定することができる。もっとも、リナリーは呪文詠唱方式ならばいくらでも発現していたわけだが。
ルーカスが、先ほどリナリーに見せていたメモを再度取り出す。
【契約キー】
『獄炎に坐す怒りの王よ、我と古の契約を』(完全詠唱はここから)
【発現キー】
『万物を燃やす原初の火よ』(省略詠唱はここから)
『司る精霊よ』(ここで発現する魔法の数を指定できる)
『飛翔、焔、敵を貫け』
『火の球』(直接詠唱はここから)
「契約詠唱方式で数を指定する場合、詠唱文にある精霊という単語の前に、発現したい数を入れる。つまり2つの魔法球を発現したいのなら『司る2の精霊よ』となるわけじゃな」
「なるほど。やってみてもよろしいですか」
「うむ。まだ詠唱を破棄することは禁止する。『完全詠唱』で頼むぞい」
頷いたリナリーが詠唱文を唱える。
「『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』、『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る100の|精霊《せいれい》よ』」
「ん?」
「『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』」
魔法はリナリーの詠唱文に忠実に応えた。
リナリーの頭上、そして背後に100発の『|火の球《ファイン》』が発現される。
当然、驚いたのはルーカスだ。
「ちょ」
「へぇ、こうして数を指定するのですね。明快で分かりやすい。果たしてどのくらいの数を一度に発現できるかについては興味あるわね。……どうかされましたか」
自らの周囲に浮かぶ『|火の球《ファイン》』の群れを見渡しながら満足そうに頷くリナリーは、咄嗟に障壁魔法を展開しようと身構えたまま硬直してしまっているルーカスにようやく気が付いた。
「先生?」
「……う、うむ。エヴァンスや。それらはしっかりと制御できておるのじゃな?」
「もちろんです。先ほどはみっともない姿をお見せしましたが、『完全詠唱』での魔法発現の感覚は掴めました。暴走の心配は無いと思われます」
「そ、そうか。ならいいんじゃが……」
例えで口にした通り、ルーカスはてっきり2発の魔法球を同時発現すると思っていたのだ。確かに数を指定しなかったルーカスが悪い。しかし、契約詠唱方式で初めての数指定の練習で、いきなり100発も発現するとは考えもしないだろう。
そもそも、例え『完全詠唱』したとして100発も一気に発現できる魔法使いが果たして何人この学習院にいるというのか。少なくとも院生の中にはいないだろう。いや、たった今、ルーカスの目の前にいることが判明したわけだが。
指を鳴らして全ての『|火の球《ファイン》』を霧散させたリナリーは言う。
「私としては数の指定についても問題無いと思うのですが……、もっと数を増やしてみましょうか?」
肯定したらいったい何百発の魔法球を発現するつもりだ。
そんな言葉を必死に呑み込んで、ルーカスは首を横に振る。
「い、いや、それには及ばんぞい。うむ。次は詠唱文を徐々に破棄していくかの」
「分かりました」
ルーカスの動揺を余所に、リナリーは淡々と頷いた。
「『省略詠唱』、『直接詠唱』、そして最後に『無詠唱』という順番でよろしいですか」
「うむ」
本来、詠唱文を破棄して魔法を発現するには相当な修練が必要だ。契約キーを省略するだけでも年単位の修練を必要とする魔法使いだっているし、生涯にわたって修練したところで『無詠唱』で魔法を発現できない魔法使いだっている。発現する魔法の難易度によって異なるものではあるが、簡単に実現できる技術では無い。
詠唱文を省略すればするほど、魔法の発現難度は上がる。しかし、リナリーは既に全てをここで実現する気でいる。しかも口調からして「順番にローテーションで回していきますね」程度のノリだ。
ルーカスはそれを指摘しなかった。
もはや「こいつなら普通に出来ちゃうんだろうな」くらいに思っている。
「『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』、『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』」
そして、リナリーは本当にさっくりと『省略詠唱』を成功させた。
契約キーを省略した魔法の発現。詠唱文の一部を省略することで発現速度を上げる代わりに、発現難度が上がり威力が下がる高等技法。
「うむ、問題無いようじゃな」
リナリーの頭上に浮かぶオレンジ色をした『|火の球《ファイン》』に、ルーカスがそう評価する。
「ありがとうございます。では、次に行きます」
言葉通り、成功した感慨に浸ることもなく、リナリーは淡々と魔法を霧散させる。
「『|火の球《ファイン》』」
そして『直接詠唱』を成功させた。
対象となる魔法名のみを唱えることで発現させる高等技術。『省略詠唱』より発現速度が早いことの代償に、発現難度はより上がり威力はより下がる。
「……問題無いようじゃな」
「ありがとうございます」
ルーカスの評価に軽く頭を下げたリナリーは、浮かんでいた『|火の球《ファイン》』を霧散させた。そして、その直後、同じ場所に新たな『|火の球《ファイン》』が生まれた。瞬き1つの間に起こった出来事である。
ルーカスは数度目をぱちぱちとさせた後、草臥れた拍手を送った。
「そして『無詠唱』じゃな。うむ、何の問題も無いようじゃ」
「ありがとうございます」
浮かんでいた『|火の球《ファイン》』がリナリーの手によって消える。
「『直接詠唱』と『無詠唱』を既に成功させているお主には、もはや必要無い説明とは思うが、一応話しておくぞい。メモを見ておくれ」
リナリーに『|火の球《ファイン》』の契約詠唱文が書かれていたメモを見せる。
「『省略詠唱』についてじゃが、詠唱文を省略するにあたり、精霊までの文はあくまで数を指定する際にイメージしやすいようにするためじゃ。そのため、慣れてくるとその部分も省略し『飛翔、焔』という文から唱えることが多くなる。さらに慣れてくると魔法名のみで発現する『直接詠唱』に移る、というわけじゃな」
「精霊までの詠唱文を省略しても『省略詠唱』の威力は落ちないと?」
「うむ。これまの研究結果ではそうなっておるし、わし自身そう実感しておる」
「なるほど。……『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』、『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』、……『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』、……確かに、知覚できる範囲で威力が落ちているようには思えませんね」
「そ、そうか。ならよかったわい」
何が良かったのか、もはやルーカスには分からなかった。ポンポン『|火の球《ファイン》』を発現しては消していくリナリーの才能に、もはや呆れるしかない。
ただ、ひとまず今日リナリーに教えておこうと思っていたことについては、全て終わらせることができたと判断した。もっとも、今日は基本的に口頭での説明だけで『完全詠唱』を何度か試させて、少しでも感覚を掴んでもらえるといいな、くらいの考えだったわけだが。
まさか今日で『無詠唱』まで辿り着かれるとは思わなかった。そもそも学習院卒業までの間に『無詠唱』を実現できない院生だっているくらいなのだから。
「これで今日教えることはおしまいかの。ようやったの、エヴァンス」
「色々と勉強になりました。ありがとうございます。魔法の新しい一面に触れられるというのは、実に胸躍るものですね。契約詠唱科を専攻して良かったと思っています」
「そうかそうか。それはなりよりじゃわい。魔法とは実に奥深いもの。今後とも精進するようにの」
「はい。それと、今日契約させて頂いた魔法を発現してみたいのですが、よろしいでしょうか」
時計を確認しつつ、ルーカスは悩む。
そろそろ日も暮れるし、リナリーは結構な魔力を使ったはずだ。なにせ途中で100発の魔法球を発現したくらいだ。発現した時点で魔力は消費しているので、射出せずに霧散させたところで消費した魔力は返ってこない。それに、契約詠唱方式は呪文詠唱方式よりも魔力消費が激しい。初めての方式でもあったわけだし、魔力消費もそうだが気疲れもしているのでは、とルーカスは思ったのだが……。
横目でちらりと窺ってみても、リナリーに疲弊した様子は無い。
そういえば編入試験の実技では計測ミスかと思われるような数値が並んでいたな、なんてことを思い出しながら、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「構わぬよ。存分に試すが良い」
新しい魔法と契約したのなら、試してみたいと思うのは当たり前の感情だ。リナリーの魔法に対する渇望は、ルーカスにとっても実に好ましいものだった。それに、自分の目が届かない場所でこっそり試されて魔法が暴走してしまえば目も当てられない。
ここで発現に慣れてくれるのなら、それに越したことは無いだろう。
ルーカスはそう思った。
花が綻ぶような笑みを浮かべてお礼を口にし、自分から距離を空けて早速魔法を試し始めるリナリーを、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべたまま見続けた。
そして。
この日のうちにリナリーは、魔法具と契約した計18の魔法その全てを完全に習得した。
カレンダー
ブログ内検索
カウンター