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「小説家になろう」様にて細々と活動しております、SoLaのブログです。

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リナリーss第6話


☆僅か一行でまとまる、これまでのお話☆

アベリィ「番号持ちはゴミ!」







 朝7時。
 けたたましいアラームの音が室内に鳴り響く。

 二段ベッドの上で寝ていたリナリーが、ゆっくりと目を開いた。

「……知らない天井ね」

 見覚えの無い風景に、思わずそう呟く。何やら身体が重いなと見てみれば、昨日寝る直前まで読んでいた学習院の教科書が、開かれた状態で自らの胸元に乗っていた。どうやら寝落ちしてしまったらしい。

 折れてしまったページを直しつつ、ゆっくりと上半身を起こす。リナリーの綺麗な金髪が、僅かに天井に擦れた。

「……ん」

 固まってしまった身体を解しながら、あくびを1つ。そして、いつの間にか鳴り止んだ目覚まし時計と「これでよし」という誰かの謎の独り言に興味を持ち、二段ベッドの下段へと目を向けた。

 そこには、目覚まし時計から電池を抜き取ったまま眠りについたルームメイトのアベリィがいた。

「いや、よしじゃないでしょう……」

 本日、リナリーの学習院デビューである。







 12年制の王立エルトクリア魔法学習院は、8年生から呪文詠唱科と契約詠唱科の2つに分かれて勉強することになるが、その比率は5対5ではない。9対1でも若干盛ってるかな、というくらいには契約詠唱科の人数は少ないのである。

 なので、リナリーのクラスメイトと言えば、ルームメイトであるアベリィに加えて……。

「アベリィにリナリー、おはよー」

「おはようです」

 寮塔の共同スペースである談話ルームで落ち合ったレベッカとナンシーで全員になる。つまり、今年度、契約詠唱科を志望したのはリナリーを除いて3人だけだったということだ。

「今日は午後から冬になるかもしれないってさ。ちゃんとローブ持った?」

「ええ、ご心配なく」

 リナリーは談話スペースのソファに掛けていた学習院指定のローブを指さした。

 魔法世界エルトクリアでは、他の国よりも高濃度の魔力が発生・停滞しているが故か、天気どころか季節すらも滅茶苦茶に到来する。今朝の天気予報士曰く、本日の天気は『春のち冬、晴れ時々曇り』である。

 白のワイシャツに赤のチェックが入ったスカート、そして胸元に校章が入った黒のブレザー。片手に学生鞄と焦げ茶色のローブ。これが本日の登校スタイルであった。

 寮塔にある食堂で軽めの朝食を済ませ、穏やかな日差しを浴びつつ、寮塔から契約詠唱科の塔へと移動する。本来の始業時間は9時だが、リナリーは初日と言うこともあり早めに出てきていた。もちろん、早めに出てくる事で噂の新入生への注目を集めないようにする、という狙いもある。



 そしてもちろん。
 そんな気休めのような対策は無駄だった。



「お前がリナリー・エヴァンスか」

 契約詠唱科の塔の門前で、1人の男が仁王立ちで待ち構えていたのである。

 リナリーたちの進路を妨害したのはその男1人だが、その場にいたのはその男だけではない。リナリーやその男を遠巻きに眺めるようにして人だかりができつつある。リナリーを見たギャラリーは男女問わず「あれが噂の転入生か」「可愛い」「教師再起不能にしたってマジ?」「彼氏いるのかな」「お人形さんみたい」など言いたい放題である。

「……貴方は?」

 ギャラリーの声など意識の外。
 目上の先輩に見える男に対しても物怖じ1つせず、リナリーは耳にかかった髪を掻き揚げながら問う。

「『|5番手《フィフス》』のオリバーだ。これ以上の紹介が必要か?」

「……やば」

 リナリーの後ろで、レベッカが小さい声でぼそっと呟いた。このタイミング、そして初対面であるリナリーの前にこの態度で登場した理由など、昨日の一件以外にあり得ない。

「聞いたぜ、新顔。『|番号持ち《ナンバーズ》』入りを目指してクロエに喧嘩売ったって?」

「売ってません」

「あ?」

 ここで否定されるとは思っていなかったのか、オリバーがフリーズする。そんな反応を見つつ、リナリーはこう続けた。

「ただ、クロエ先輩の持つエンブレムを奪う方法を聞いただけです」

「それを喧嘩売ったって言うんだよ!!」

 まったくもってオリバーの言う通りである。
 様子見のギャラリーはおろか、リナリーの連れである3人もそう思ったに違いない。

「ふっ……、ふふふ。随分と煽ってくれるじゃねーか、新顔。この学習院で長生きしたけりゃ、自分より強い奴には服従するべきだぞ」

 威圧するように口にするオリバーに、リナリーは怯えるどころか首を傾げた。

「年功序列ではなく?」

「あ? 聞いてないのか? この学習院じゃ力が全てだ。『|番号持ち《ナンバーズ》』と番外ってのは天と地ほどの差があるのさ」

「ふぅん。そうですか。それで用件を聞いても?」

「ちょ、ちょっとリナリーさんっ」

 淡々と会話を進めるリナリーに肝を冷やしたのか。
 後ろからアベリィが止めに入ろうとするが、それをリナリーは手で制した。

「ご存知でしょうが、私は今日が登校初日なんです。余計な時間を費やしたくありません。有体に言って、邪魔です」

「おぉおぉおぉいぃいぃいぃ……」

 着飾らないドストレートな発言に、レベッカは綺麗なヴィブラードを刻んだ呻き声を上げる。アベリィもナンシーも、ついでに言えばギャラリーの反応も似たようなものだった。

「やっぱり、ガツンとやってやる必要があるみたいだな」

 頬をひくつかせながら、オリバーが言う。
 リナリーが端正な眉を吊り上げた。

「それはどういう意味でしょう」

「お灸を据えてやるって言ったんだ。面貸せ」

 契約詠唱科の塔ではなく、学習院の運動場がある方角へとオリバーが親指を向ける。エルトクリア学習院の上位5名に入る絶対者、『|番号持ち《ナンバーズ》』からの宣戦布告。
 身の程を弁えた普通の学習院生ならば裸足で逃げ出すようなシチュエーションだが――。

「それって、私と決闘してくれるってこと?」

 宣戦布告を叩きつけられたのは、残念ながらこのリナリー・エヴァンスである。
 当然、反応は嬉々としたものだ。

「してくれる、だぁ? 随分と面白い言い回しだな。その通り。決闘してやるってことだ」

 青筋立てて頷くオリバーに、リナリーは同性さえも見惚れてしまうほどの妖艶な笑みを浮かべた。

「なるほど、なるほど」

「リ、リナリー、さん?」

 恐る恐る声を掛けてくるアベリィに荷物を預け、なぜか若干顔を赤らめたオリバーの先導で運動場へと向かうリナリー。



 そして。
 リナリーは、入学した初日の登校途中に『|5番手《フィフス》』のエンブレムを手に入れた。







「け、契約詠唱科8年、リナリー・エヴァンスが『|番号持ち《ナンバーズ》』入りしました。番号は5です」

「……は?」

 放課後である。

 この時間まで学習院外で仕事をしていた理事長であるアメリアは、ようやく自らの理事長室へと戻ってきていた。溜まっていた事務処理をこなしながらも不安要素は1つである。書類にハンコを押す手を止め、今日一日の様子でも聞かせてもらうかと呼び鈴を鳴らそうとしたところで、理事長室の扉が激しくノックされた。

 そして「お、お戻りになりましたか!」と慌てて話す教員から放たれた一言がこれである。これには流石のアメリアも平静を保つことができず、手にしていた書類を床一面にぶちまけた。

「……話についていけないのだけれど。何だって?」

「ですから! リナリー・エヴァンスが『|5番手《フィフス》』になったという話です!」

「……まさか、どうやって」

 教員の過半数から決闘の承認を得られたわけではないだろう。そうなると、思い当たる理由は1つしかない。

「登校途中に絡んできた元『|5番手《フィフス》』であるオリバー・ブラウンを文字通り一蹴した、と。目撃証言も多数あり、もはや疑いようがありません。彼は決闘を承諾して敗北しました」

「……」

 アメリアは思わず天を仰いだ。ようは、『|番号持ち《ナンバーズ》』の一角が自分から喧嘩を吹っ掛けて見事に玉砕したということだ。これがなんと入学した登校初日の出来事である。

「契約詠唱科から2人目が現『|番号持ち《ナンバーズ》』入りしたということで、契約詠唱科の塔は今でもお祭り騒ぎだそうで。止めるべきはずの教師陣も混じって今日1日はほとんど授業になりませんでした」

 当然そうなるだろう。
 そもそもの敷居の高さから契約詠唱科は呪文詠唱科に後れを取りやすい。どちらかというと研究肌の魔法使いが多く在籍する科である。実践でも呪文詠唱科に負けず劣らずの結果を出せているのは、今のところ最高学年にして『|2番手《セカンド》』の座にいるクロエ・フローレスくらいだ。

 普段肩身の狭い思いをしていた契約詠唱科の教師たちも同様だ。契約詠唱科は、卒業後に実戦で幅広く活躍する院生を輩出しにくい。アメリアとしては差別しているつもりはないが、契約詠唱科の教師陣たちが抱いていたコンプレックスを一瞬で払拭した起爆剤に興奮するなと言う方が無理な話だ。

 決闘の段階では、リナリーは契約詠唱を習得していない。ただ、この際それは関係無かった。「契約詠唱科に所属する院生が『|番号持ち《ナンバーズ》』入りした」という事実が大事なのだ。契約詠唱科の教師陣は、これから契約詠唱に意欲を見せるリナリーにあれやこれやとテコ入れしてくるだろう。想像を絶する怪物が出来上がるのは時間の問題だった。

 もはや秒読み、いやむしろ怪物自体は既に出来上がっている可能性すらある。もともと怪物としての基盤は出来上がっていたのだ。後はどれだけカスタマイズしていくのかという話である。そう考えると怪物を作り上げるというよりも、もともと怪物だったリナリー・エヴァンスを契約詠唱科の教師陣が魔改造し始めたと表現した方が的確なのかもしれない。

 アメリアは王族護衛『トランプ』のハートから言われた言葉を思い出していた。

『奴は学習院内の序列を再起不能なまでに壊滅させる可能性さえ秘めている。扱いには十分注意するように』

 何を馬鹿なことを、とアメリアは鼻で嗤った。
 あの時は。

「ク、クーリングオフって何日間有効だったかしら」

「お気を確かに! 理事長!」

 よろめくアメリアを教師が支える。

『|番号持ち《ナンバーズ》』。
 それは在籍者数2000名を超える王立エルトクリア魔法学習院、上位5名に与えられる栄誉。この学習院における絶対的存在。まれにあるエンブレムを賭けた決闘でも、学習院の教師陣の推薦が無いものなら『|番号持ち《ナンバーズ》』がいとも簡単に撃退するのが普通だった。それも当たり前で、それほどまでに『|番号持ち《ナンバーズ》』と番外の院生の差は歴然としている。

 そして、本当にごくまれにある交代劇だってエンブレムを手にするのはほぼ最高学年である12年生の院生だ。過去に数度11年生や10年生の院生がエンブレムを手にしたことはあったが、8年生がエンブレムを手にしたという話はそれこそ前代未聞である。

「……い、一度話を聞いてみる必要があるわね」

「そうした方がよろしいかと」

 将来『|番号持ち《ナンバーズ》』入りが有望視されている自分の娘、クランベリーだって自重しているのか決闘を申し込んだことは無かったはずだ。

 そんなことを思いながらも何とかアメリアが口にした言葉に、教師はカクカクと頷いた。

「リナリー・エヴァンスは今どうしていますか? 契約詠唱科の塔で祭りに?」

 アメリアは「主役なんだから祭りに参加どころかもはや祀られているかもな」などと思いながらも尋ねる。しかし、教師は首を横に振った。

「契約詠唱科の塔にいるのは間違いありませんが、リナリー・エヴァンスは祭りに参加していません」

「え?」

「今は契約詠唱習得のため、魔法具との契約を行っているかと」

「……あぁ、そう」

 契約は放課後、という話はきっちりと守っていたらしい。
 変なところで律儀である。

 しかし。

「それでは、契約詠唱科は主役不在でお祭り騒ぎだと?」

「そうなります」

 契約詠唱科に在学中の院生を始め、教師陣までもが率先してリナリーを祭りに参加させていたそうだが、放課後になるや否や、リナリーは担当教師を引っ張って契約できる魔法具が保管されている場所に閉じこもったらしい。

「……契約が終了したら、理事長室まで来るよう伝えてもらえるかしら」

「わ、分かりました」

 ふらつきながらも理事長室の椅子に腰かけたアメリアに一礼し、教師が来た時と同じように慌ただしく去っていく。

 初日。
 入学した初日である。
 いきなり『|番号持ち《ナンバーズ》』の一角が陥落した。
 しかもそれを成したのは『契約詠唱科』の『8年生』と来た。

 前代未聞である。
 今後、学習院において語り継がれる武勇伝の1つとなるのは間違いない。
 入学の初日である。
 繰り返すが、入学の初日である。

 既に契約詠唱科は丸1日機能しなかったという。
 リナリー・エヴァンスがこの学習院にもたらすであろう影響力を、アメリアはまだ甘く見ていたということだ。ハートからあれだけ念押しされて、更に本人と面接することでそれなりに警戒を強めていたにも拘わらず、だ。

 ただ、よくよく考えて見れば、リナリーは何も悪い事などしていない。エンブレムを手にしたのは『|番号持ち《ナンバーズ》』の承諾を受けた上での決闘だったようだし、今も遊び呆けているいるわけではなく、お祭り騒ぎの中1人担当教師と魔法具を用いて契約中だ。

 むしろ、学習院のルールを順守し上を目指す英才である。
 注意すべき事など1つもない。「もう少し大人しくできないのか」という言葉は口にするべきではないだろう。それは上昇志向のある院生のやる気を阻害する行為だ。

「……私、エヴァンスを呼んで何がしたいんだっけ」

 1人取り残されたアメリアはデスクの上で頭を抱えた。

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