リナリーss第1話
テレポーター
※
後に世界最強と謳われ、その名を知らぬ者などいないほどの魔法使いになる者にだって、無名の時期は存在する。なぜなら、その事実はあくまで『後に』なのだから。
つまり。
後に世界最強と謳われ、その名を知らぬ者などいないほどの魔法使いとなるリナリー・エヴァンスにだって、その時期はあったのである。もっとも、その時期は思いの外短かったと言わざるを得ないかもしれないが。
※
金髪碧眼。
人形のような少女だった。
幼少期は孤児院で過ごした。親が生きているのか死んでいるのかも、リナリーは知らなかった。物心がついた頃には既にいなかったし、孤児院の施設内が彼女にとっての全てだった。
魔法が当たり前のように存在する世界ではあるが、皆が魔法を使えるわけではない。幸いにして、リナリーにはその才能があったらしく、孤児院で働いていた魔法が使える大人のもとへ足を運んでは、熱心に魔法を練習することに集中した。
新しい魔法が使えるようになると褒められた。だからどんどん魔法に磨きをかけて、どんどん新しい魔法を覚えていった。
誰かが言った。
『エルトクリア魔法学習院で主席魔法使いを狙えるんじゃないか?』
エルトクリア魔法学習院とは、リナリーの住む孤児院がある国で唯一の教育機関だ。10歳から入学を許される12年制の学校で、この学校を卒業することが、世間一般で言う『大学卒』と同じ経歴となる。
対して、まもなく10歳を迎える少女リナリーはこう答えた。
『んー。きょうみない』
その言葉通り、リナリーはエルトクリア魔法学習院に入学せず、そのまま孤児院に居座り続けた。周囲の大人たちがどれだけ言って聞かせても、リナリーは首を縦に振ろうとはせず、孤児院内で貪欲に魔法を学び続けた。
誰かが言った。
『この子は天才なんじゃないか?』
リナリーはこう答えた。
『そうかも』
自意識過剰にも程がある発言だったが、誰もがそれを笑うことができなかった。なぜなら、リナリーは大学課程で学ぶ魔法を15歳で我がものとし、魔法の発現に必要となる呪文詠唱を省略したり、そもそも詠唱すらしないで発現するといった高等技術すら身につけていたのだから。
この頃には、たびたび学習院のお偉いさんが来ては熱心にリナリーを学習院へ勧誘するようになっていた。しかし、リナリーは首を縦には振らず、孤児院から頑なに出ようとはしなかった。
誰かが言った。
『魔法を極めたいのなら、学習院は素晴らしい場所だと思うんだけどねぇ』
リナリーはこう答えた。
『そんなところへ行かなくても、魔法は極められる』
そして、更に2年の月日が経過したある日。
リナリーが17歳になった年。
彼女に、人生の最大の転機が訪れる。
※
その日も、孤児院の裏手にある空き地で、リナリーは日課となっていた魔法の調整をしていた。
「……これは凄いな」
攻撃魔法の1つである魔法球を周囲に展開させて発現効率の向上を図っていたリナリーは、背中越しに掛けられた声に、腰まで届く流れるような金髪をなびかせながら振り向いた。
「……誰」
「ん? これは失礼。私はエルトクリア王家に仕える護衛団員の者だ。『ハート』の称号を預かっている」
リナリーに負けず劣らずな金髪美女は、優雅に一礼してそう言った。
エルトクリア。それは、リナリーのいる国を統治する王族の名だ。そして金髪美女が口にした「『ハート』の称号を預かっている」という言葉。それは、王族守護の使命を帯びる8人に贈られる称号の1つ。最高戦力と謳われる『トランプ』の一角であることを意味していた。
「ふぅん」
対して、リナリーの反応は実に淡白なものだった。本来なら、その無礼な態度に叱責の声が飛んでもおかしくはないのだが、生憎とハートと名乗った金髪美女の後ろに控える者たちはそれどころではなかった。それだけ、彼らの目の前で起こっている現象が信じられなかったのである。
少女・リナリーの周囲には、魔法球の群れが展開されている。攻撃の指示を受けていないそれらは、リナリーの周囲を囲うようにして停滞したままだ。ただ、魔法球を発現して停滞させるだけならば彼らもここまで動揺しなかっただろう。彼らも魔法を使う者、その中でもエリートと呼ばれる者たちだ。
問題なのは、その量である。
リナリーの周囲に展開されている魔法球は、100発を軽く超えていた。
彼らはその半分だって維持できないだろう。いや、10発できるだけでも十分にエリートと言っても良いこの世界で、目の前の少女は100発を軽く超えるだけの魔法球を展開し、それを維持し続けているのだ。そして、その信じられない光景を17歳の少女が実現しているという現実。
「くくっ、『孤児院に住む天才魔法少女』の異名は伊達では無かったということだ。なあ?」
ハートに振られた男が、ぎこちなく頷いている。
「信じられません」
「これほどの逸材が、こんなところで埋もれているとは……」
ハートの後ろに控える男たちは、次々にそう口にした。
その様子を黙って見据えていたリナリーは、ため息を吐いて指を鳴らした。瞬間、リナリーの周囲に展開されていた魔法球の群れが音も無く消失する。ざわめく男たちを冷めた視線で観察しつつ、リナリーはハートと名乗った金髪美女に問う。
「で。何の用」
「き、君。口の利き方を――」
「良い」
ようやく我を取り戻した控えの1人が注意しようとしたところを、ハートが制した。
「部下が失礼した。彼らは『エルトクリア魔法聖騎士団』の団員だ」
「護衛の護衛ってこと? 国税の無駄遣いね」
リナリーの言葉に再び反応した男を、ハートが手で制する。
「リナリー・エヴァンス。風の噂で聞いたのだが、魔法学習院への入学を断り続けているとか?」
「前置きはいらないわ。時間の無駄だから。本題に入ってくれないかしら」
「くくっ、いいな。私に対してここまで物怖じしない者も珍しい」
年上に対して向ける発言では無かったが、ハートは逆に好感を覚えたらしい。
「魔法聖騎士団への勧誘に来た。この国の治安維持に貢献する気はないか?」
「無い」
即答だった。
「ふむ。本来、なりたくても簡単になれる地位ではない。誉れある一団なのだがな。君の実力ならば、いずれ我々『トランプ』の一席も狙えると思うのだが」
「興味が無い」
またしても即答。
「君のような才能に溢れる子を遊ばせておくほど、この国にも余裕があるわけではないのだが」
「関係ない。そもそも、私はこの国の為に生きているわけではない」
取り付く島もないとはまさにこのこと。ハートは苦笑しながら後ろで控える者たちを再度手で制した。
「ふむ。ならば、この私と一勝負しないか?」
その言葉に、リナリーは眉を吊り上げる。
「勝負?」
「そう、勝負だ。もし私が勝てば、君にはエルトクリア魔法学習院に入学してもらう」
「魔法聖騎士団への入団じゃなくて?」
「やる気の無い者を迎え入れられる程、敷居の低いものではない」
ぴしゃりとそう言い切ったハートに、リナリーは僅かに目を見開いた。「じゃあ魔法学習院は敷居が低いのか」と皮肉ってやろうかと思ったものの、時間の無駄だと思い直して別の言葉を口にする。
「で、それを受けるメリットが私にあるの?」
「うむ。もしも君が勝てば、今後君が望まない勧誘の話は全て私が遮断してやろう。『トランプ』の権力を使えば、その程度は容易い。煩わしい思いをしなくて済むようになるぞ?」
「ちょっ!? そんなことを勝手に決めてよろしいのですか!?」
ハートが出した提案に真っ先に食い付いたのは、ハートの後ろに控える魔法聖騎士団の面々だった。しかし、ハートはそちらへ視線すら向けずに答える。
「この一件に関して、私は陛下から全権を委任されている。私の判断が絶対だ。文句はあるか?」
その凍てついた声色に魔法聖騎士団の面々が沈黙した。その光景をしげしげと眺めていたリナリーが決断する。
「いいわよ。勝負の内容は?」
最高戦力と謳われる自分を相手に、軽い調子で勝負を受けるリナリー。その様子にますます好感を抱いたハートが言う。
「魔法球の打ち合いでもやるか。ただ、対等な条件での勝負はフェアではないな。お前が魔力切れでダウンする前に、私をこの場から一歩でも動かすことができたらお前の勝ち。どうだ?」
ハートはそう提案しながら、リナリーがどのような反応を示すかに興味を抱いていた。
普通なら、ハートは彼女の後ろに控える魔法聖騎士団の面々が相手だったとしても、その程度ではハンデにすらならない。それだけ『トランプ』に所属する魔法使いとは別格の存在なのだ。
しかし、リナリーの反応はハートの想像の斜め上を突き抜けていた。
「ハンデはいらない。それじゃ、魔法球を打ち合って一歩でも動いた方が負けってことで」
「はっ!?」
動揺の声を上げたのは魔法聖騎士団の面々だ。その反応の全てを無視し、リナリーが後退してハートとの距離を空ける。おおよそ20mほど離れた所で足を止めた。
「これくらいでいい?」
「構わないが……、本当に条件はそれでいいのか?」
ハートからしてみれば、この展開は予想していなかった。リナリーが自分からどれだけ有利な条件をもぎ取れるのか、その手腕に期待していたのだが、完全な肩透かしにあった気分である。
「もちろん。ハンデ貰って戦っても面白くないし。それとも……」
リナリーは、この日初めて好戦的な笑みを浮かべて言った。
「負けた時の言い訳が必要だった?」
静寂。
やや離れた所から様子を窺っていた孤児院の職員はおろか、手練れ揃いの魔法聖騎士団の面々すらも絶句する中、あからさまな挑発を受けたハートだけが獰猛な笑みを浮かべる。
そして言った。
「面白い。リナリー・エヴァンス。君は本当に面白い」
※
後にその名を世界に轟かせることになるリナリー・エヴァンス。
彼女の伝説は、まさにここから始まった。
後に世界最強と謳われ、その名を知らぬ者などいないほどの魔法使いになる者にだって、無名の時期は存在する。なぜなら、その事実はあくまで『後に』なのだから。
つまり。
後に世界最強と謳われ、その名を知らぬ者などいないほどの魔法使いとなるリナリー・エヴァンスにだって、その時期はあったのである。もっとも、その時期は思いの外短かったと言わざるを得ないかもしれないが。
※
金髪碧眼。
人形のような少女だった。
幼少期は孤児院で過ごした。親が生きているのか死んでいるのかも、リナリーは知らなかった。物心がついた頃には既にいなかったし、孤児院の施設内が彼女にとっての全てだった。
魔法が当たり前のように存在する世界ではあるが、皆が魔法を使えるわけではない。幸いにして、リナリーにはその才能があったらしく、孤児院で働いていた魔法が使える大人のもとへ足を運んでは、熱心に魔法を練習することに集中した。
新しい魔法が使えるようになると褒められた。だからどんどん魔法に磨きをかけて、どんどん新しい魔法を覚えていった。
誰かが言った。
『エルトクリア魔法学習院で主席魔法使いを狙えるんじゃないか?』
エルトクリア魔法学習院とは、リナリーの住む孤児院がある国で唯一の教育機関だ。10歳から入学を許される12年制の学校で、この学校を卒業することが、世間一般で言う『大学卒』と同じ経歴となる。
対して、まもなく10歳を迎える少女リナリーはこう答えた。
『んー。きょうみない』
その言葉通り、リナリーはエルトクリア魔法学習院に入学せず、そのまま孤児院に居座り続けた。周囲の大人たちがどれだけ言って聞かせても、リナリーは首を縦に振ろうとはせず、孤児院内で貪欲に魔法を学び続けた。
誰かが言った。
『この子は天才なんじゃないか?』
リナリーはこう答えた。
『そうかも』
自意識過剰にも程がある発言だったが、誰もがそれを笑うことができなかった。なぜなら、リナリーは大学課程で学ぶ魔法を15歳で我がものとし、魔法の発現に必要となる呪文詠唱を省略したり、そもそも詠唱すらしないで発現するといった高等技術すら身につけていたのだから。
この頃には、たびたび学習院のお偉いさんが来ては熱心にリナリーを学習院へ勧誘するようになっていた。しかし、リナリーは首を縦には振らず、孤児院から頑なに出ようとはしなかった。
誰かが言った。
『魔法を極めたいのなら、学習院は素晴らしい場所だと思うんだけどねぇ』
リナリーはこう答えた。
『そんなところへ行かなくても、魔法は極められる』
そして、更に2年の月日が経過したある日。
リナリーが17歳になった年。
彼女に、人生の最大の転機が訪れる。
※
その日も、孤児院の裏手にある空き地で、リナリーは日課となっていた魔法の調整をしていた。
「……これは凄いな」
攻撃魔法の1つである魔法球を周囲に展開させて発現効率の向上を図っていたリナリーは、背中越しに掛けられた声に、腰まで届く流れるような金髪をなびかせながら振り向いた。
「……誰」
「ん? これは失礼。私はエルトクリア王家に仕える護衛団員の者だ。『ハート』の称号を預かっている」
リナリーに負けず劣らずな金髪美女は、優雅に一礼してそう言った。
エルトクリア。それは、リナリーのいる国を統治する王族の名だ。そして金髪美女が口にした「『ハート』の称号を預かっている」という言葉。それは、王族守護の使命を帯びる8人に贈られる称号の1つ。最高戦力と謳われる『トランプ』の一角であることを意味していた。
「ふぅん」
対して、リナリーの反応は実に淡白なものだった。本来なら、その無礼な態度に叱責の声が飛んでもおかしくはないのだが、生憎とハートと名乗った金髪美女の後ろに控える者たちはそれどころではなかった。それだけ、彼らの目の前で起こっている現象が信じられなかったのである。
少女・リナリーの周囲には、魔法球の群れが展開されている。攻撃の指示を受けていないそれらは、リナリーの周囲を囲うようにして停滞したままだ。ただ、魔法球を発現して停滞させるだけならば彼らもここまで動揺しなかっただろう。彼らも魔法を使う者、その中でもエリートと呼ばれる者たちだ。
問題なのは、その量である。
リナリーの周囲に展開されている魔法球は、100発を軽く超えていた。
彼らはその半分だって維持できないだろう。いや、10発できるだけでも十分にエリートと言っても良いこの世界で、目の前の少女は100発を軽く超えるだけの魔法球を展開し、それを維持し続けているのだ。そして、その信じられない光景を17歳の少女が実現しているという現実。
「くくっ、『孤児院に住む天才魔法少女』の異名は伊達では無かったということだ。なあ?」
ハートに振られた男が、ぎこちなく頷いている。
「信じられません」
「これほどの逸材が、こんなところで埋もれているとは……」
ハートの後ろに控える男たちは、次々にそう口にした。
その様子を黙って見据えていたリナリーは、ため息を吐いて指を鳴らした。瞬間、リナリーの周囲に展開されていた魔法球の群れが音も無く消失する。ざわめく男たちを冷めた視線で観察しつつ、リナリーはハートと名乗った金髪美女に問う。
「で。何の用」
「き、君。口の利き方を――」
「良い」
ようやく我を取り戻した控えの1人が注意しようとしたところを、ハートが制した。
「部下が失礼した。彼らは『エルトクリア魔法聖騎士団』の団員だ」
「護衛の護衛ってこと? 国税の無駄遣いね」
リナリーの言葉に再び反応した男を、ハートが手で制する。
「リナリー・エヴァンス。風の噂で聞いたのだが、魔法学習院への入学を断り続けているとか?」
「前置きはいらないわ。時間の無駄だから。本題に入ってくれないかしら」
「くくっ、いいな。私に対してここまで物怖じしない者も珍しい」
年上に対して向ける発言では無かったが、ハートは逆に好感を覚えたらしい。
「魔法聖騎士団への勧誘に来た。この国の治安維持に貢献する気はないか?」
「無い」
即答だった。
「ふむ。本来、なりたくても簡単になれる地位ではない。誉れある一団なのだがな。君の実力ならば、いずれ我々『トランプ』の一席も狙えると思うのだが」
「興味が無い」
またしても即答。
「君のような才能に溢れる子を遊ばせておくほど、この国にも余裕があるわけではないのだが」
「関係ない。そもそも、私はこの国の為に生きているわけではない」
取り付く島もないとはまさにこのこと。ハートは苦笑しながら後ろで控える者たちを再度手で制した。
「ふむ。ならば、この私と一勝負しないか?」
その言葉に、リナリーは眉を吊り上げる。
「勝負?」
「そう、勝負だ。もし私が勝てば、君にはエルトクリア魔法学習院に入学してもらう」
「魔法聖騎士団への入団じゃなくて?」
「やる気の無い者を迎え入れられる程、敷居の低いものではない」
ぴしゃりとそう言い切ったハートに、リナリーは僅かに目を見開いた。「じゃあ魔法学習院は敷居が低いのか」と皮肉ってやろうかと思ったものの、時間の無駄だと思い直して別の言葉を口にする。
「で、それを受けるメリットが私にあるの?」
「うむ。もしも君が勝てば、今後君が望まない勧誘の話は全て私が遮断してやろう。『トランプ』の権力を使えば、その程度は容易い。煩わしい思いをしなくて済むようになるぞ?」
「ちょっ!? そんなことを勝手に決めてよろしいのですか!?」
ハートが出した提案に真っ先に食い付いたのは、ハートの後ろに控える魔法聖騎士団の面々だった。しかし、ハートはそちらへ視線すら向けずに答える。
「この一件に関して、私は陛下から全権を委任されている。私の判断が絶対だ。文句はあるか?」
その凍てついた声色に魔法聖騎士団の面々が沈黙した。その光景をしげしげと眺めていたリナリーが決断する。
「いいわよ。勝負の内容は?」
最高戦力と謳われる自分を相手に、軽い調子で勝負を受けるリナリー。その様子にますます好感を抱いたハートが言う。
「魔法球の打ち合いでもやるか。ただ、対等な条件での勝負はフェアではないな。お前が魔力切れでダウンする前に、私をこの場から一歩でも動かすことができたらお前の勝ち。どうだ?」
ハートはそう提案しながら、リナリーがどのような反応を示すかに興味を抱いていた。
普通なら、ハートは彼女の後ろに控える魔法聖騎士団の面々が相手だったとしても、その程度ではハンデにすらならない。それだけ『トランプ』に所属する魔法使いとは別格の存在なのだ。
しかし、リナリーの反応はハートの想像の斜め上を突き抜けていた。
「ハンデはいらない。それじゃ、魔法球を打ち合って一歩でも動いた方が負けってことで」
「はっ!?」
動揺の声を上げたのは魔法聖騎士団の面々だ。その反応の全てを無視し、リナリーが後退してハートとの距離を空ける。おおよそ20mほど離れた所で足を止めた。
「これくらいでいい?」
「構わないが……、本当に条件はそれでいいのか?」
ハートからしてみれば、この展開は予想していなかった。リナリーが自分からどれだけ有利な条件をもぎ取れるのか、その手腕に期待していたのだが、完全な肩透かしにあった気分である。
「もちろん。ハンデ貰って戦っても面白くないし。それとも……」
リナリーは、この日初めて好戦的な笑みを浮かべて言った。
「負けた時の言い訳が必要だった?」
静寂。
やや離れた所から様子を窺っていた孤児院の職員はおろか、手練れ揃いの魔法聖騎士団の面々すらも絶句する中、あからさまな挑発を受けたハートだけが獰猛な笑みを浮かべる。
そして言った。
「面白い。リナリー・エヴァンス。君は本当に面白い」
※
後にその名を世界に轟かせることになるリナリー・エヴァンス。
彼女の伝説は、まさにここから始まった。
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