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「小説家になろう」様にて細々と活動しております、SoLaのブログです。

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リナリーss第4話

☆三行でまとまる、これまでのお話☆

リナリー「魔法使いとして高みを目指します」
アメリア「なぜ今頃になって来たし」
アベリィ「……優しい人だといいなぁ」ドキドキ←扉の外で







 エルトクリア魔法学習院は、学習院と言いつつも外観は西洋風の城に近い。

 両サイドにとんがり頭の塔があり、それぞれが『呪文詠唱科』と『契約詠唱科』の領分となる。共同で使う施設は、中央の一際大きな建物・共同塔に集約している。魔法を使う実習ドームなどがそれだ。それぞれの塔にも小規模なものはあるが、ドーム状の大規模なものは共同塔にしかない。そして、学習院の教員室があるのも共同塔。但し、教員個人の研究室は両サイドの塔にそれぞれ分散している。

 などなど。

 アベリィの説明に耳を傾け、相槌を打つリナリー。2人はのんびりと学習院の裏手にある寮塔を目指しているところだった。

「エヴァンスさんは、どうして契約詠唱科を志望されたんですか?」

「リナリーでいいわよ、ベル。どうして、とは?」

「あ、それじゃあ私のこともアベリィで。えっと、リナリーさんのことは随分と噂になっていまして」

「……噂?」

 その単語に、リナリーが端正な眉を吊り上げる。

「座学は全教科満点で、うち一科目は限界突破。実技も計測不能を繰り返し、対人戦では教師を完封負けに追い込んだって」

「……この学習院にプライバシーとやらはないのかしら」

 少し不機嫌そうに口を尖らせるリナリーにアベリィが苦笑した。

「噂になるのは仕方が無いと思います。この時期に入学試験を受ける人なんて、これまでいなかったみたいですから」

 アベリィが言う通り、エルトクリア魔法学習院が新入生を迎え入れてから少なくない月日が経過している。

「それに、リナリーさんが試験を受けた日も、普通に私たち授業はありましたし」

「敬語もいらないわよ? あぁ、休みの日にやったんじゃなかったのね」

 軽くため息を吐きつつ、リナリーは肩を竦めて見せた。

「えっと、敬語は癖ですので。あ、あと加えて『トランプ』の方からの推薦だとか」

「そこまで広まっているわけね」

 意外と面倒くさいことになるかもしれない、とリナリーはこの段階でようやく思い始めた。自らをハートと名乗った金髪美女を思い出す。リナリーが初めて加減せずに魔法球の打ち合いができるかも、と思えた相手である。

 そんな感想を抱ける時点で何かがズレていることに、この少女はまだ気付いていない。

「なんでそんな淡白なリアクションなんです!? あの『トランプ』ですよ!? この魔法世界エルトクリアにおける絶対的な存在!! 憧れの大英雄!! その一角なんですよ!? むしろどこで知り合ったんですか!?」

 白けた調子のリナリーにアベリィが喰い付いた。「絶対的な存在は王じゃないかなぁ」という当たり前のつっこみを省略し、リナリーは引き気味に答える。

「まあ、成り行きで」

「成り行き!! 通学途中で大当たりの宝くじを拾っちゃったくらいの確率じゃないですか!!」

「……ここ寮だから行き帰りで宝くじを拾うことなんてないんじゃないかしら」

「つまり本来なら0%ってことですよ!!」

 ほぼゼロ距離で喚くアベリィからリナリーが物理的に一歩引いた。

「あぁ、そう」

 それだけ答えるのが精一杯である。そこでどれだけ自分が熱くなっていたのかに気付いたアベリィが、頬を赤く染めながらそっと離れた。

「と、というわけで。それで噂もあっという間に拡散してました。で、その熱は消火することもなく再燃しています。呪文詠唱で入学試験をぶっち切った英傑が、なぜか契約詠唱科を選択したって」

「絶対に私の事をストーカーして故意に噂を拡散させている奴がいるわよね。この学習院で一番最初にやることが決まったわ。まずはそいつを潰す」

「何を急に恐ろしい事言い出してるんですか、リナリーさん。駄目ですよ、冗談でもそんな物騒な事を言っては」

 リナリーとしては本心を口にしたのだが、アベリィは現時点ではまだリナリーについて「入学試験をぶっち切って特例で飛び級をした」という事実しか聞かされていないために、冗談として受け取った。

「それに、そういった情報を小出しで流しているのは先生たちですよ。多分、私たち在学生のやる気を出させるためだと思いますけど」

「ふぅん」

 その話を聞いて噂の拡散源へ完全に興味を失くしたのか、リナリーの口からは気の無い相槌だけが漏れた。







 城のような学習院の裏手にある1本の塔。寮塔は選択科目による区別はされていないようだった。アベリィに促され、リナリーが真新しい学生証をかざす。軽快な電子音が鳴り響き、ロックが外れた音がした。この原理は魔法では無くICカードのようなものだ。

 扉のすぐ奥は、リナリーの予想以上に広いエントランスになっていた。頭上にはシャンデリア、床には深紅の絨毯と、学生の寮塔とは思えない煌びやかな造りになっている。左右には柔らかそうなソファや重厚な木造りのテーブル、テレビなどが設置されており、談話スペースのようになっている。現に、数人の院生が思い思いにくつろいでいた。いくつかの視線は値踏みするかのようにリナリーへと向けられていたが、リナリーは特に反応を示さなかった。

 エントランスの奥には、階段ともう1つの扉。

「ここは男女兼用の共同スペースです。奥に見える階段を上ると男子寮になりますから、女子は立ち入り禁止です。ここからは見えませんが、つきあたりを左に曲がると男女兼用の食堂があります。右に曲がると男子の大浴場がありますが、そちらも当然女子は立ち入り禁止です。女子寮は、階段の隣にある扉の向こうになります」

「なるほど」

 アベリィの言葉に、リナリーが頷いた。そのタイミングで、遠巻きにその様子を窺っていた1グループがこちらに近付いてきた。アベリィが「あ、寮長さん」と口にし、1人の女性がそれに微笑みで応える。その視線は、すぐにリナリーへと向けられた。

「リナリー・エヴァンスさんね?」

「……そうですが」

「そう身構えなくても大丈夫よ。私は12年生のクロエ・フローレス。アベリィが言った通り、今は女子寮の寮長を務めているわ」

 12年生ということは、エルトクリア魔法学習院の最高学年だ。魔法世界内では珍しい真っ黒な髪をストレートで下した女性へ、リナリーは丁寧にお辞儀をして返した。

「本日よりお世話になります。リナリー・エヴァンスです。よろしくお願いします」

「え……、ええ、よろしく」

 礼儀正しいその反応に若干タイムラグを生じさせたクロエだったが、すぐにそう口にする。彼女は寮長という立場から、リナリーに関する情報を前以って院長アメリアから聞かされていた。問題児かもしれない、という情報である。

 情報とは違って良い子だ、と判断していたクロエに、リナリーが口を開く。

「寮長は『|番号持ち《ナンバーズ》』ですか?」

 その質問に、クロエの後ろにいた2人の少女はもちろん、リナリーの隣にいたアベリィも目を丸くした。

「あら、知っていたの? そうよ。私はこの学習院における『|2番手《セカンド》』を任されているわ」

 大きく主張された胸元のポケットから垂れ下がっている金色のチェーンを、クロエが抜き取る。振り子のように揺れるその先端には、メダルのような物が付いていた。

「エンブレム。学習院が選定した上位5名に与えられる称号よ」

 金のメダルには細かな装飾が施されており、その中央には『Second』の文字が刻まれていた。

 そのメダルを見たリナリーの目に妖しい色が灯る。

「なるほど、なるほど」

「リ、リナリーさん? 何がなるほどなんですか?」

 その様子に違和感を感じたのか、隣に立つアベリィがおそるおそる自らのルームメイトの名を呼んだ。

「寮長、続けて質問してもよろしいでしょうか」

「あら、何かしら」

 一部の隙も無い笑みを浮かべてクロエが先を促す。

「私がその『|2番手《セカンド》』のエンブレムを欲した場合、どのような手続きを踏めば良いのでしょう?」

「ちょっ!?」

「い、いきなり貴方は何を!?」

「ご自身がどのような発言をしているのかお分かりですの!?」

 過剰に反応したのはクロエではなく、アベリィとクロエの後ろにいた少女2人である。特に2人の少女は過剰と言うよりももはや過激と言っても過言ではないほどの反応を示した。

「こらこら。淑女たるもの、そう声を荒げてはいけないわね。エヴァンスさんは質問しただけよ?」

 当のクロエはこの調子である。談話スペースから遠巻きに成り行きを見守っていたいくつかのグループも、それで落ち着きを取り戻したようだった。周囲の空気が元に戻ったことを確認し、クロエが改めて口を開く。

「エンブレムを手に入れるための手順だったわね。大きく分けて2つあるわ。1つめは、学習院で年に2回行われる定期試験で結果を出す。但し、定期試験は学年によって当然内容が異なり、高学年であればあるほど難易度も上がる。よって、必然的に最高学年である12年生の面々が取得しやすくなるわ」

 それが正規の手段と言うことだ。

「2つめは、エンブレム所持者に決闘を申し込み、勝利する。学年が下の子でも、実力さえあればエンブレムを獲得できるようにするための制度ね」

 その説明に、リナリーは端正な顔に妖艶な笑みを浮かべた。激昂していたはずの2人の少女ですら見惚れてしまう笑みを向けられても、クロエは動じない。逸るリナリーをやんわりと手で制する。

「但し、決闘を成立させるためには条件があるわ。決闘を申し込まれたエンブレム所持者が、それを受諾した場合」

 その条件を聞いたリナリーの表情から笑みが消えた。

「それでは保身に走る『|番号持ち《ナンバーズ》』からはエンブレムを奪えない、と」

「さっきから聞いていれば貴方と言う人はっ――」

 リナリーの言葉に再び激昂した取り巻きの少女を、クロエが手で制した。

「エヴァンスさんの言う通り、この条件だけでは基本的に『|番号持ち《ナンバーズ》』との決闘は成立しないでしょうね。私も貴方の申し込みを受諾するつもりはない。受諾する意味が無いからね」

 既に学習院の2番手に登り詰めているクロエからすれば、リナリーの決闘を受けるメリットは少ない。己の力を誇示できる、分を弁えない新参者を叩きのめせる、といったメリットも無くはないがクロエを動かすには足りなかった。

「だから、もう1つ別の条件があるわ。それは、対象となるエンブレム所持者に決闘を申し込むことを、学習院の教員の過半数に受諾させること。教員から過半数の賛成を得られると、その対象となるエンブレム所持者は決闘を拒否できなくなるの」

「なるほど」

 先ほどリナリーが言ったような理由で決闘が不発にならないための措置、ということだ。

「もっとも、教員の過半数から賛同を得るというのもかなり厳しい条件よ。特に学年が下の子はね。実績を積んだ上で『この学生なら勝てるかもしれない』と思わせないといけないのだから。私が言いたいこと、分かるかしら?」

「無名の状態で挑めるほど、安くはないということですね」

「そこまで挑発的な言動をするつもりはないけれど、そういうことよ」

 柔らかな笑みを浮かべたまま、リナリーの言葉を肯定するクロエ。

 しばしの間、両者は無言で見つめ合う。突如として訪れた沈黙に、アベリィとクロエの後ろにいる2人の少女、そして談話スペースにいたいくつかのグループすらも固唾を飲んで状況を見守っている。

 その沈黙を破ったのはリナリーだった。

「勉強になりました。お手間を取らせてしまい申し訳ありません。今後ともよろしくお願い致します」

 腰を折り、優雅に一礼する。

「構わないわ。寮長としての仕事だもの。これからも気軽に声をかけてね、リナリー」

 にこやかに、ちゃっかり自分のことを名前で呼んだクロエにもう一度頭を下げ、リナリーはその場を辞することにした。

「お待たせ。それじゃあ、寮室に案内してもらえるかしら」

「え? あ、はい。分かりました」

 いきなり話を振られたアベリィは、かくかくした動作でリナリーに頷いたのだった。

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