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「小説家になろう」様にて細々と活動しております、SoLaのブログです。

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リナリーss第2話

☆三行でまとまる、これまで(謎の記事)のお話☆

 ハート様「勝負だ!」
 リナリー「ばっちこい」
 団員たち「ハラハラ」







 魔法世界エルトクリア。

 広大なアメリカの領地の一角にあるそれは、エルトクリア王が統治する魔法使いの国だ。正確に言えば、アメリカの領地であることに間違いはないのだが、通貨が違えば適用される法律も違う、挙句魔法世界エルトクリアとアメリカの行き来に専用の身分証明書も必要となれば、ほぼ独立した国と見てもいいかもしれない。ただ、使用されている言語は英語である。

 周囲は厳重な防護結界で覆われており、魔法世界エルトクリアへの入国には正面玄関となるアオバと呼ばれる街を経由する必要がある。中には、計10を数える特色ある街並みが広がっており、自国全てを賄えるだけのライフラインが成立している。

 その10ある街のうちの1つ。ひっそりと佇むとある孤児院の裏手にある空き地にて、20mほどの距離を空けて2人が対峙していた。

 かたや、この国に8人しかいない最高戦力の一角、ハート。
 かたや、この国のとある孤児院に身を寄せる今年17歳になった少女。

 この文面だけ見るなら、どう考えても勝つのは前者だ。もはや弱い者いじめの域である。いや、虐待や処刑といったおどろおどろしい単語の方がしっくりくるかもしれない。

 しかし。
 そこに17歳の少女が『あのリナリー・エヴァンス』という事実が加わると、少々事情が変わってくる。

「ならば、最初は軽く行こうか」

 相対する少女に向けてそう言ったハートは、自らの真上に1発の魔法球を発現した。詠唱工程を省略した高等技術、『無詠唱』という技法である。通常通り詠唱した上で発現した魔法よりも威力は劣るが、発現速度は比べるまでも無く最速。

 ただ、この場でハートが『無詠唱』という技法で魔法を発現した真意とは、発現速度やら自らの技量の誇示やらではなく、威力を極力抑えようとする意味合いが強かった。いくら『孤児院に住む天才魔法少女』と謳われる少女が相手であったとしても、自分とは立場が違い過ぎるが故だ。

 ただでさえ大人と子ども。そしてハートは最高戦力と呼ばれる存在。自分の魔法球1発で、少女が死んでしまう可能性すら考慮しておかなければならない。そうハートは肝に銘じた上で、魔法球をリナリーへと射出した。

 そして。
 ハートが打ち出した魔法球は、リナリーのもとへ届く前に消失した。

「……お?」

 その光景に、思わずハートの口から間の抜けた声が漏れる。同じ魔法球で迎撃するわけでもなく、障壁魔法を展開することで防ぐわけでもなく、消失。

 つまり、ハートが放った魔法球よりも、リナリーが纏う魔力の方が多かったために打ち消されてしまったということだ。

「なるほど。今の威力程度ではお話にならないということか」

 ハートは笑いを噛み殺しながらそう呟く。確かに威力は抑えた。それも極限まで。それでも、自分よりも一回り以上若い少女に、ここまで簡単に打ち消されるとは思っていなかったのだ。

「小手調べにしても、これは無いんじゃないかしら」

「そうだな。すまなかった」

 一回り以上若い少女に向けて、ハートは素直に謝罪した。
 そして。

「ならば、もう少し威力を上げていこうかな」

 ハートが両手を広げてそう告げる。
 再び無詠唱による発現。ただ、先ほどのように威力を極限まで抑えたりはしない。

 さらに。

「火属性だって!?」

 2人を囲うようにして見守っていた魔法聖騎士団の団員が叫ぶ。団員が指摘した通り、ハートが発現した魔法球は、先ほどと違い炎の塊となって発現されていた。魔力には様々な属性を付加させることができるが、火属性はその中でも『攻撃特化』とされるほど、別格な強さを誇っている。

 その火属性の魔法球が、5つ。

「さあ、どう凌いでくれる? 見せてくれ」

 その言葉を合図に、ハートから火属性の魔法球5発が射出された。先ほどよりスピードも速い。オレンジ色の残像を残しながらリナリーの下へと殺到する魔法球。その光景を見ても、リナリーの表情に怯えは無かった。

 一瞥し、軽く右手を向ける。動作はたったそれだけ。
 リナリーの魔法が発現される。

「なんだって!?」

 団員の誰かが驚きの声を上げた。

 攻撃特化の火属性を纏った魔法球5発。それらが全て、リナリーが無詠唱で展開した魔法障壁によって阻まれて弾け飛んだのだ。

「まさか、攻撃特化の火属性を無詠唱の障壁で防ぐだと!?」

 それも、この国の最高戦力と謳われる魔法使いの魔法球を、である。防がれた当の本人に動揺は無い。無論、自らがまだまだ本気とは程遠いレベルの魔法しか使っていないからだ。それでも、ここまで簡単に防がれることに多少の驚きはあった。

「素晴らしいな。リナリー・エヴァンス。17歳、独学にしてその技量。感嘆に値する」

「ありがと。けど、少し気が早いんじゃないかしら。まだ私の実力の底を見せた覚えは無いわよ」

 ハートの賞賛に素っ気なく答えたリナリーが、ついに攻撃に移った。
 ハートと同じく無詠唱。属性は付加されていない。

 しかし。
 彼女の背後に展開された魔法球の数は、50を超えていた。

「馬鹿なっ!? この数を……、無詠唱だと!?」

 またもや団員の誰かが叫ぶ。並列で10発の魔法球を発現するだけでも十分にエリートといわれるこの世界で、この数は常軌を逸していた。しかも、その基準は詠唱をした上での話だ。さらに難易度が上がる無詠唱でこの状況を作り出したリナリー・エヴァンスは、もはや別格と言える存在だった。

 団員たちは完全に理解した。



 この少女は、既に自分たちでは届かない英雄と呼ばれる領域にいるのだと。



「いくわよ」

「あぁ、来い」

 外野が勝手に盛り上がろうが、本人たちに興味は無い。ハートの答えを聞き、リナリーが魔法球の群れを一斉に射出した。それらは目にも留まらぬ速さでハートの下へと殺到する。

「ふっ」

 ハートが両手を打ち鳴らした。

 同時にハートの身体から勢いよく魔力が放出される。最初の1発目でリナリーが防いだのと原理は同じ。ハートは自らの周囲に魔力を放出することで、リナリーから放たれた魔法球の群れ全てを霧散させた。

 その光景を見たリナリーが笑う。

「貴方、負けず嫌いなのね」

「負けん気が無ければこの立場は務まらないということだ」

 軽口を叩き合いながら、お互いが無詠唱で新たな魔法球を発現する。両者共に、攻撃特化の火属性を付加させていた。もはやリナリーが無詠唱で火属性の魔法球を発現していても、ハートは驚かない。ニヤリと口角を歪めて言う。

「負けず嫌いならお前も負けていないのではないか?」

「別に。流石に攻撃特化を無属性の魔法球で捌き切れないと思っただけよ」

 同時に射出。

 両者の中間付近で衝突し合い、派手に火花を散らす。それを合図として、問答無用の打ち合いが始まった。これまでの片方が攻撃している間は片方が防御、といったターン制のような展開ではない。お互いがお互いの隙を突くようにして魔法球を発現し、相手へ放つ。そして、魔法球で撃ち落とし切れなかった流れ弾を障壁魔法で防ぐ。

 もはや完全にギャラリーと化していた団員たちは、その光景に唖然とする他無かった。最高戦力と謳われる魔法使い相手に、一歩も引かない少女。当然、ハートは手加減をしている。しかし、それを差し引いたとしてもこの光景は信じ難いものだった。

「こちらに合わせているのかしら。詠唱しても構わないのよ」

「ほざけ。誰に向かって口を効いているんだこの小娘」

 そして、当の本人たちは、打ち合いの最中にこうして軽口を叩き合う始末である。

 リナリーの火属性を付加した魔法球の数が、更に一段階上がった。もはや一度に発現している量は100発近くにのぼるだろう。しかし、それでもハートの牙城は崩れない。的確に向かってくる魔法球を相殺し、流れ弾は障壁で処理していく。それはリナリーも同じだった。

 両者共に一歩も引かない砲撃戦に突入している。

「はははっ! ここまでやるとは思っていなかったぞ!! 本当に素晴らしいな、リナリー・エヴァンス!!」

 ハートにあるのは感嘆だ。よもやここまでやるとは。これで独学というのならば、ちゃんとした教師の下で教育を受ければどれだけの怪物になるというのか。ハートの興味は尽きない。

「気に入ったぞ! 私はお前が欲しい! この勝負、勝たせてもらうとしよう!!」

 ハートの勝利宣言と同時に、リナリーも次の一手に出た。魔法球による砲撃戦を継続しつつ、リナリーが右手を天へと掲げる。

 そして、口にする。
 その魔法の名を。

「『業火の天――、」

 ハートは耳を疑った。
 まさか、と思った。
 しかし、身体は勝手に動く。

「馬鹿者がっっっっ!!」

 ルールなど思考の外。
 地面を蹴り、一瞬でリナリーへと肉薄する。

「っ!?」

 一歩でも動けば敗北。
 そのルールから接近戦を想定していなかったが故に、リナリーは完全に意表を突かれた。

 リナリーが気付いた時には、既にその腹へ掌底を叩きこまれていた。威力は最小限に抑えられていたものの、地面を2回3回とバウンドして転がっていく。反射で発現した防御魔法が威力を殺したものの、痛いものは痛い。身体中を走り抜ける激痛に、構成していた魔法が霧散する。リナリーの頭上へ収束していた膨大な魔力が、制御を失って弾け飛んだ。それによって生じた衝撃波を、ハートが咄嗟に展開した障壁魔法が防ぎ切る。

 沈黙が訪れた。

「けほ」

 その沈黙は、咳き込みながら上半身を起こしたリナリーによって破られる。

「……いきなり動くとか、卑怯」

「第一声がそれか、小娘。お前が今発現しようとしていた魔法が、ここで本当に猛威を振るっていればどうなっていたか。その魔法が使えるお前に分からないはずがあるまい」

 指摘された内容に思い当たる節があったのか、リナリーはハートから視線を逸らした。それを見たハートが重いため息を吐く。

「リナリー・エヴァンス。お前の技量は素晴らしいの一言に尽きる。千の賛辞を贈ってもまだ足りないだろう。だが、周囲を巻き込む魔法を平然と選択するその姿勢は頂けないな」

「……ごめんなさい」

 上半身を起こしたままの姿勢で、リナリーは素直に頭を下げた。過激な反論でも飛び出してくるか、と予想していたハートが目を丸くする。リナリーは気まずそうに、もう一度頭を下げた。

「初めてだったから……、あんなに打ち合えた人。だから、つい調子に乗ってしまった……。ごめんなさい」

 なるほど、とハートは思った。

 これだけの技量を持っている少女だ。この孤児院という場所に競い合える人間がいるわけがない。そんな人間が仮にいたとすれば、そいつはとうの昔に魔法学習院に籍を置いているだろう。学習院への入学を断り、頑なにここへ留まり続けた弊害ということだ。

「やはり、お前は学習院に行くべきだよ。リナリー・エヴァンス」

 その言葉に、リナリーは下げていた顔を上げた。尻もちをついたまま、真っすぐな目でハートを見る。

「王立エルトクリア魔法学習院。この魔法世界エルトクリアにおいて、唯一存在する教育機関だ。この国にいる以上、強い奴も弱い奴も、お前の年代はみんなここへ集まってくる。中には、お前と競い合える奴だっているだろう」

 ハートの言葉に「いや、いないんじゃね?」と小声で呟いた団員が、隣に立つ同僚に蹴り飛ばされた。咳払いをしたハートが仕切り直しを図る。

「そして、そこには大魔法を使ってもびくともしないような施設も充実している。こんな空き地のような場所では、お前ほどの魔法使いならば満足に魔法も発現できまい?」

 図星だったのか、リナリーは視線を逸らした。

「お前の望む全てが学習院にはあるだろう。なぜ、そこまで学習院へ行くことを嫌う?」

 ハートの問いに、リナリーは即答しなかった。あちらこちらへと視線を巡らせた挙句、口を尖らせながら答える。

「学校生活が嫌だから」

「は?」

「決められた時間割に則って動くのが嫌。やらされる勉強は嫌い。自分が好きな事だけを好きなだけやって暮らしていきたい」

「……清々しいまでの自由奔放さだな」

 呆れ声でハートは言った。「これまでの拒絶の理由がこれだと知れたら、勧誘に来ていたお偉いさん方はどう思うのだろうか」という疑問を、ハートは慌てて打ち消す。

「まあ、ある程度は仕方があるまい。だが、そう悲観することもないぞ。学習院は徹底した実力主義だ。1年生であろうが12年生であろうが、強い者が偉い。特に学習院が定めたランキングで5位以内に入りさえすれば、卒業までのカリキュラムですら思いのままだ」

「……ランキング?」

 ハートの吊るした餌に、リナリーが喰い付いた。

「そう。全院生のうち上位5名は、『|番号持ち《ナンバーズ》』と称され、様々な特権が与えられる。飛び級はもちろん、個人の研究室や高級魔法具の貸与、警戒地区ガルダーの特別見学権、それから……」

「あ、そこらへんはどうでもいいわ。カリキュラムを変更できるってことは、好きに魔法の練習とかしてて良いってこと? それに飛び級もあるってことは12年もいなくていいってことよね?」

「……どうでもいい、か。まあ、そうだな。しかし、だ。他国には『継続は力なり』という言葉があるという。勤勉は何よりも勝るということだな。『|番号持ち《ナンバーズ》』入りしたのを良い事に胡坐をかいていては、飛び級は愚か直ぐにまた……」

「入る」

 ハートのありがたいお言葉をぶった切って、リナリーが端的に宣言した。

「は?」

 あまりの展開の速さに、ハートの目が点になる。

「私、学習院に入る。で、サクッと『|番号持ち《ナンバーズ》』入りして1年で卒業する」

「はあああああああああああ!?」

 己の立場を忘れ、ハートが大声を上げた。

「1年で卒業なんてできるわけがないだろう!! そもそも『|番号持ち《ナンバーズ》』にサクッとなれるわけが……」

 そこまで言いかけてハートが止まった。
 思ってしまったのだ。

 こいつならサクッとなれちゃうかも、と。

「そうと決まれば、早速手続きね。院長! これまでお世話になりました! あと、学習院に入ろうと思うので、私の保護者になってください!」

 ハートの心情を余所に、遠巻きに成り行きを見守っていた孤児院の院長の下へとリナリーが走っていく。その様子を呆けた調子で眺めていたハートの下へ、団員たちが集まってきた。

「あの……」

「皆まで言うな」

 口を開きかけた団員を、先手を打って黙らせるハート。そして自らが呻くようにして呟く。

「……話の持っていく方向を間違えた。学習院では無く、騎士団に勧誘するべきだった」

 騎士団に入団させていれば、何とでもなっただろう。最初の数年はどれだけ力があろうと見習いとして通せる。そして、徐々に徐々に位を上げてやれば良かった。

 しかし、学習院は違う。先ほどハートが言った通り、例え学年が下であっても実力がある人間の方が偉いというのが学習院の暗黙の了解である。もちろん、世間一般の常識として年上の人間には敬意を払うべきなのは当然だが、ハートというこの国の最高戦力に数えられる魔法使いを相手に、あの態度をとるリナリーだ。そういう輩は一度ガツンとやられてしまった方が良い薬になるだろうが、そこはやはりあのリナリーである。むしろ苦言を呈してくる輩ごと粉砕して、瞬く間にトップに躍り出てしまうかもしれない。

 そうなると、1年で卒業するという馬鹿げた話が真実となる可能性すらあるのだ。これまで均衡を保ってきた学習院内の序列を、再起不能なまでに滅茶苦茶にした上で。

「12年制のエルトクリア魔法学習院を1年で卒業とか前例無いですけど」

「知っている」

「陛下にどう報告するんですか?」

「ありのままを……」

 最高戦力と謳われる魔法使いの目が死んでいた。

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