リナリーss第5話
テレポーター
☆三行でまとまる、これまでのお話☆
クロエ「出直してきてちょうだいね」ニッコリ
リナリー「さっさと番号を狩ろうと思っていたけど、腰抜けだらけだと面倒ね」フゥ
アベリィ「……」ナニイッテンノコノヒト
※
女子寮へ通じる扉の前で学生証をもう一度かざし、リナリーはようやく女子寮へと足を踏み入れた。扉が閉まったことを確認し、かつクロエやその取り巻きもいないことを念入りに確認した後、アベリィが口を開いた。
「駄目じゃないですか、リナリーさん! いきなりあんな質問をするなんて!!」
「……あんな質問?」
責められる心当たりの無かったリナリーが首を傾げる。
「寮長のエンブレムが欲しいってやつですよ!!」
「あぁ……」
気の無い返事をするリナリーに、アベリィは頭を抱えた。
「リナリーさん。確かに貴方はこれまでに前例のない8年生からの、それも途中入学という特例づくしの存在です。私は貴方の魔法を見たわけではありませんが、入試の成績から相当な腕の持ち主であることも理解しているつもりです。おそらく、私ではまったく敵わないであろうことも」
長細い廊下をまっすぐ進み、エレベーターのボタンを押しながらアベリィは言う。3機あるうちの1つがそれに応えて扉を開いた。2人揃って乗り込む。アベリィは8階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まり、ゆっくりと上昇を開始する。
「ですが、言わせてください。貴方はこの学習院における絶対的な『|番号持ち《ナンバーズ》』の存在を軽く見過ぎています」
リナリーは今後の活動方針を決めるためにした質問、というだけの認識だったのだが、アベリィが自分のためを思って言ってくれていることは分かったので、大人しく頷いて続きを促した。
「この学習院に在籍する約2000人の院生の上位5名。学習院が指定する最低限の単位さえ納めてしまえば、あとは自由にカリキュラムを組める英才。個人の研究室を所有でき、研究費も学習院持ちで思いのまま。他にも特別待遇の特典がごろごろ。当然、それだけの待遇を受ける面々です。貴方が想像しているより一回りも二回りも強い存在だと理解してください」
「それは『トランプ』のハート並みに強いということ?」
「なんで比較対象がこの国の最高戦力なんですか!? そんなのに比べたらゴミですよ!! はっ!?」
壮大な爆弾発言をかましたアベリィが真っ青になって口元を覆う。エレベーターの電子音が鳴って扉が開いた。エレベーターから降りながら、リナリーがにやりと笑う。
「つまり『|番号持ち《ナンバーズ》』はゴミ、と。なるほど理解したわ」
「そこだけピンポイントにピックアップするのやめてもらえます!?」
続いて降りてきたアベリィが涙目で叫んだ。
「で、どっち?」
それを意図的に無視したリナリーが、エレベーター正面に張られた部屋のナンバープレート表を見ながら問う。「……こっちです」とアベリィがどんよりした口調で歩き出した。
「先ほどのは寮長さんだったから許されたんですよ。血の気の多い『|5番手《フィフス》』とかだったら、そのまま決闘にもつれ込んでしまったかもしれないんですから」
「なるほど。その手があったわね」
「……何の話ですか?」
等間隔で明かりが灯り、床には絨毯が敷かれている。そんなホテルのような細い廊下を歩きつつ、アベリィが質問した。
「ん? わざわざ実績なんて積まなくても、私の挑発に乗ってくれる『|番号持ち《ナンバーズ》』を襲えばいいのかなって」
「私の話聞いてました!? 『|番号持ち《ナンバーズ》』を甘く見ないでくださいって言ったばかりなんですけど!!」
やがて、1つの扉の前で立ち止まる。ナンバープレートには『823』と書かれていた。
「ここが私たちの寮室になります」
「……ルームメイトは何人なのかしら」
リナリーの質問に、アベリィが首を傾げる。
「私とリナリーさんの2人ですよ?」
「じゃあ、中にいるのはお友達?」
「……え?」
アベリィは扉のロック解除を行わずにノブを捻った。彼女の予想に反して扉はすんなりと開く。
「不用心ね。いくら全寮制の学校とはいえ、寮室には鍵をかけてから出かけなさいな」
「す、すみません」
新人であるリナリーへ頭を下げたアベリィが、恐縮しながら室内へと入った。その後にリナリーも続く。寮室はそこまで広いというわけではない。入ってすぐ右手にトイレと風呂場。その先に空間が広がっている。
二段ベッドが右端に寄せて設置されており、それが空間の4分の1を占めていた。そして正反対の位置に並ぶ形で勉強机が2つ。机とベッドの間に丸テーブル。一番奥に窓を背にする形で小型テレビが置かれている。
そして、その丸テーブルでくつろぐ2人の少女。
「……ベッキー、アン」
その2人の名をアベリィが呼んだ。
「やっほ。お邪魔してるよ。ここで張ってれば間違いなく噂の新入生に会えると思ってたからさ」
「なら、部屋の外で待っていればいいじゃないですか。勝手に入っちゃだめですよ」
「勝手に入られたくないなら、ちゃんと鍵はするべきじゃない? ドジっ娘のアベリィちゃん」
「うぐっ!?」
アベリィが何かに刺されたジェスチャーをした。カラカラと笑う少女が立ち上がってリナリーを見た。
「勝手にお邪魔してごめんな。アベリィの友達で、契約詠唱科の8年生のレベッカ・ウィルソン。ベッキーで良いよ。で、こっちのちっさいのが」
「ナンシー・クラークです。アンと呼んでくださいです。同じく契約詠唱科の8年生です。よろしくです」
リナリーの身長も高いわけではないが、ナンシーと名乗った少女はそのリナリーの肩くらいまでしかなかった。レベッカはくせっ毛のプラチナブロンドの髪をショートに、ナンシーはくすんだ金髪を肩まで伸ばしている。
「リナリー・エヴァンスです。リナリー、と。よろしく」
リナリーも軽く頭を下げた。
「じゃあ、軽くお茶会でも開きますかー」
自己紹介が終わったところで、レベッカがそんなことを言い出す。そして勝手にテレビの下の戸棚を漁って準備を始めた。
「ここ、アベリィの部屋だったのよね? なぜベッキーが手慣れた手つきでティーパックの準備を始めているの?」
「アベリィは良く鍵を閉め忘れるので、ここがいつの間にか私たちのたまり場になっていたです。勝手知ったるなんとやら、です」
ナンシーの説明を受け、リナリーは呆れた視線をアベリィに向ける。アベリィは顔を真っ赤してそっぽを向いた。リナリーの中でアベリィの評価が『おどおどした子』から『どじっ娘』に進化した。
※
「はぁぁぁぁぁ!? 入寮直後にクロエ寮長に喧嘩売ったぁぁぁぁぁ!?」
「……それはびっくりです」
ティーパックで淹れた紅茶を丸テーブルに4つ用意し、ささやかなお茶会が開催された。話題の中心は、当然新参者であるリナリーとなる。そこでアベリィは、愚痴をぶちまけるかのように先ほどあった顛末を暴露していた。
「喧嘩を売ったとかご挨拶ね」
「いやいやいや、それは喧嘩を売ったってとられても仕方ないって」
何やらご立腹なリナリーに、レベッカが苦笑する。
「どのような意図があったにせよ、気を付けるべきです。クロエ寮長は契約詠唱科の希望ですから」
「希望?」
疑問符を浮かべるリナリーにナンシーが頷いた。
「現在の『|番号持ち《ナンバーズ》』に、契約詠唱科在籍者はクロエさんしかいないです」
「あら、そうなの?」
「そりゃそうだよ。契約詠唱に必要な魔法具を自前で用意できるお金なんて、普通は調達できないんだからさ。学習院が用意してくれるのはほとんどが基礎魔法のみ。それじゃこの学習院の上位5人になんて入れやしない。自前で強力な魔法が使える魔法具を用意できるお金があって、かつ魔法の才能もずば抜けている。そんな人間、そういやしないよ」
レベッカはそう言い切ってからティーカップを傾ける。アベリィもレベッカの言い分に頷いた。
「ベッキーの言う通りです。魔法の才能、そして莫大な財産。どちらが欠けても契約魔法の使い手にはなれませんから」
「なるほど」
だからこそ、契約詠唱方式よりも呪文詠唱方式の方が普及しているのだ。
「じゃあ、3人はどうして契約詠唱科に?」
リナリーの質問に、3人の少女はお互いの顔を見合わせた。
「え? だってせっかく超高級な魔法具を無料で契約させてくれるって言うんだよ? 契約詠唱科の方がお得な感じがするじゃん」
と、レベッカ。
「私はもともと魔法が得意ではありませんから、将来は実戦魔法使いではなく、研究職を目指そうと思っています。ですので、見聞を広める意味で」
と、アベリィ。
「お金があったからです」
そしてナンシーである。
「アンが一番不純な理由ね」
「ははは、だろ? こいつ、こう見えてお嬢様なんだよ」
レベッカが笑いながら隣に座るナンシーの頭をぐしゃぐしゃにした。ナンシーは嫌そうな顔をしながらも、視線をリナリーに向ける。
「それで、リナリーはどういった理由なんです? 噂では、入学試験は呪文詠唱方式だったと伺っているです」
「お、それそれ。私もそれ気になってた」
「私も気になります」
ナンシーの質問に、レベッカとアベリィも喰い付く。隠す必要もないので、リナリーは淡々と答えを口にした。
「見聞を広めたいから、という理由だから、アベリィが一番近いかもしれないわね」
「じゃあ、どこかのお嬢様だからとかではなく?」
「私、孤児院育ちだから。親もいないしお金もない」
レベッカの質問に、リナリーは偽りなく答える。
「あ、なんかごめん」
「気にしないで。気にされるほうが気になるわ」
そう言って、リナリーは紅茶を一口飲んだ。
「じゃあ、リナリーは学習院が用意した魔法具で契約するです?」
「そうなるわね」
さっさと話題を変えようと質問してきたナンシーに、リナリーはにこやかに頷いた。それを聞いたアベリィががっくりと肩を落とす。
「……それでよく寮長さんにエンブレム欲しいとか言えましたね」
「あら? それじゃあ寮長は学習院が用意した魔法具で契約したわけではない?」
「そうですね。アンと一緒でご自身の実家が用意した物で契約していますから、高難度の魔法も発現できますよ」
「なるほど。いいわね。その方が燃えるわ」
エントランスで対峙したクロエの佇まいを思い出し、リナリーが好戦的な笑みを浮かべた。
「おぉっと。リナリー、可愛い顔して結構物騒なことを言うんだね」
「そう? 可愛いで言うならベッキーだって十分可愛らしいじゃない」
「よしてくれ。私に可愛いなんて似合わないよ。口調もこんな感じだしね」
リナリーからの称賛に、レベッカは照れたように手をぱたぱたと振った。「ベッキーは十分可愛いです」「そうですよ。もっと自分に自信を持ちましょう」「やめてほんとにそれ以上やめて」と3人でキャイキャイやりだしたのを眺めながら、ふと思った疑問をリナリーが口にする。
「3人とも仲が良いようだけど、同じクラスなのかしら」
「え?」
リナリーからしてみれば素朴な疑問だったのだが、なぜか3人ともびっくりして固まってしまっていた。
「私、何かおかしい事を言ったかしら」
「いや……、おかしいって言うか、何も聞いてないの?」
レベッカからの逆質問に頷く。その反応を見た3人がお互いの顔を見合わせた。そして、代表してアベリィが驚愕の事実を口にする。
「契約詠唱科の8年生は、今ここにいるメンバーで全員ですよ?」
「え?」
今度はリナリーがフリーズする番だった。
クロエ「出直してきてちょうだいね」ニッコリ
リナリー「さっさと番号を狩ろうと思っていたけど、腰抜けだらけだと面倒ね」フゥ
アベリィ「……」ナニイッテンノコノヒト
※
女子寮へ通じる扉の前で学生証をもう一度かざし、リナリーはようやく女子寮へと足を踏み入れた。扉が閉まったことを確認し、かつクロエやその取り巻きもいないことを念入りに確認した後、アベリィが口を開いた。
「駄目じゃないですか、リナリーさん! いきなりあんな質問をするなんて!!」
「……あんな質問?」
責められる心当たりの無かったリナリーが首を傾げる。
「寮長のエンブレムが欲しいってやつですよ!!」
「あぁ……」
気の無い返事をするリナリーに、アベリィは頭を抱えた。
「リナリーさん。確かに貴方はこれまでに前例のない8年生からの、それも途中入学という特例づくしの存在です。私は貴方の魔法を見たわけではありませんが、入試の成績から相当な腕の持ち主であることも理解しているつもりです。おそらく、私ではまったく敵わないであろうことも」
長細い廊下をまっすぐ進み、エレベーターのボタンを押しながらアベリィは言う。3機あるうちの1つがそれに応えて扉を開いた。2人揃って乗り込む。アベリィは8階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まり、ゆっくりと上昇を開始する。
「ですが、言わせてください。貴方はこの学習院における絶対的な『|番号持ち《ナンバーズ》』の存在を軽く見過ぎています」
リナリーは今後の活動方針を決めるためにした質問、というだけの認識だったのだが、アベリィが自分のためを思って言ってくれていることは分かったので、大人しく頷いて続きを促した。
「この学習院に在籍する約2000人の院生の上位5名。学習院が指定する最低限の単位さえ納めてしまえば、あとは自由にカリキュラムを組める英才。個人の研究室を所有でき、研究費も学習院持ちで思いのまま。他にも特別待遇の特典がごろごろ。当然、それだけの待遇を受ける面々です。貴方が想像しているより一回りも二回りも強い存在だと理解してください」
「それは『トランプ』のハート並みに強いということ?」
「なんで比較対象がこの国の最高戦力なんですか!? そんなのに比べたらゴミですよ!! はっ!?」
壮大な爆弾発言をかましたアベリィが真っ青になって口元を覆う。エレベーターの電子音が鳴って扉が開いた。エレベーターから降りながら、リナリーがにやりと笑う。
「つまり『|番号持ち《ナンバーズ》』はゴミ、と。なるほど理解したわ」
「そこだけピンポイントにピックアップするのやめてもらえます!?」
続いて降りてきたアベリィが涙目で叫んだ。
「で、どっち?」
それを意図的に無視したリナリーが、エレベーター正面に張られた部屋のナンバープレート表を見ながら問う。「……こっちです」とアベリィがどんよりした口調で歩き出した。
「先ほどのは寮長さんだったから許されたんですよ。血の気の多い『|5番手《フィフス》』とかだったら、そのまま決闘にもつれ込んでしまったかもしれないんですから」
「なるほど。その手があったわね」
「……何の話ですか?」
等間隔で明かりが灯り、床には絨毯が敷かれている。そんなホテルのような細い廊下を歩きつつ、アベリィが質問した。
「ん? わざわざ実績なんて積まなくても、私の挑発に乗ってくれる『|番号持ち《ナンバーズ》』を襲えばいいのかなって」
「私の話聞いてました!? 『|番号持ち《ナンバーズ》』を甘く見ないでくださいって言ったばかりなんですけど!!」
やがて、1つの扉の前で立ち止まる。ナンバープレートには『823』と書かれていた。
「ここが私たちの寮室になります」
「……ルームメイトは何人なのかしら」
リナリーの質問に、アベリィが首を傾げる。
「私とリナリーさんの2人ですよ?」
「じゃあ、中にいるのはお友達?」
「……え?」
アベリィは扉のロック解除を行わずにノブを捻った。彼女の予想に反して扉はすんなりと開く。
「不用心ね。いくら全寮制の学校とはいえ、寮室には鍵をかけてから出かけなさいな」
「す、すみません」
新人であるリナリーへ頭を下げたアベリィが、恐縮しながら室内へと入った。その後にリナリーも続く。寮室はそこまで広いというわけではない。入ってすぐ右手にトイレと風呂場。その先に空間が広がっている。
二段ベッドが右端に寄せて設置されており、それが空間の4分の1を占めていた。そして正反対の位置に並ぶ形で勉強机が2つ。机とベッドの間に丸テーブル。一番奥に窓を背にする形で小型テレビが置かれている。
そして、その丸テーブルでくつろぐ2人の少女。
「……ベッキー、アン」
その2人の名をアベリィが呼んだ。
「やっほ。お邪魔してるよ。ここで張ってれば間違いなく噂の新入生に会えると思ってたからさ」
「なら、部屋の外で待っていればいいじゃないですか。勝手に入っちゃだめですよ」
「勝手に入られたくないなら、ちゃんと鍵はするべきじゃない? ドジっ娘のアベリィちゃん」
「うぐっ!?」
アベリィが何かに刺されたジェスチャーをした。カラカラと笑う少女が立ち上がってリナリーを見た。
「勝手にお邪魔してごめんな。アベリィの友達で、契約詠唱科の8年生のレベッカ・ウィルソン。ベッキーで良いよ。で、こっちのちっさいのが」
「ナンシー・クラークです。アンと呼んでくださいです。同じく契約詠唱科の8年生です。よろしくです」
リナリーの身長も高いわけではないが、ナンシーと名乗った少女はそのリナリーの肩くらいまでしかなかった。レベッカはくせっ毛のプラチナブロンドの髪をショートに、ナンシーはくすんだ金髪を肩まで伸ばしている。
「リナリー・エヴァンスです。リナリー、と。よろしく」
リナリーも軽く頭を下げた。
「じゃあ、軽くお茶会でも開きますかー」
自己紹介が終わったところで、レベッカがそんなことを言い出す。そして勝手にテレビの下の戸棚を漁って準備を始めた。
「ここ、アベリィの部屋だったのよね? なぜベッキーが手慣れた手つきでティーパックの準備を始めているの?」
「アベリィは良く鍵を閉め忘れるので、ここがいつの間にか私たちのたまり場になっていたです。勝手知ったるなんとやら、です」
ナンシーの説明を受け、リナリーは呆れた視線をアベリィに向ける。アベリィは顔を真っ赤してそっぽを向いた。リナリーの中でアベリィの評価が『おどおどした子』から『どじっ娘』に進化した。
※
「はぁぁぁぁぁ!? 入寮直後にクロエ寮長に喧嘩売ったぁぁぁぁぁ!?」
「……それはびっくりです」
ティーパックで淹れた紅茶を丸テーブルに4つ用意し、ささやかなお茶会が開催された。話題の中心は、当然新参者であるリナリーとなる。そこでアベリィは、愚痴をぶちまけるかのように先ほどあった顛末を暴露していた。
「喧嘩を売ったとかご挨拶ね」
「いやいやいや、それは喧嘩を売ったってとられても仕方ないって」
何やらご立腹なリナリーに、レベッカが苦笑する。
「どのような意図があったにせよ、気を付けるべきです。クロエ寮長は契約詠唱科の希望ですから」
「希望?」
疑問符を浮かべるリナリーにナンシーが頷いた。
「現在の『|番号持ち《ナンバーズ》』に、契約詠唱科在籍者はクロエさんしかいないです」
「あら、そうなの?」
「そりゃそうだよ。契約詠唱に必要な魔法具を自前で用意できるお金なんて、普通は調達できないんだからさ。学習院が用意してくれるのはほとんどが基礎魔法のみ。それじゃこの学習院の上位5人になんて入れやしない。自前で強力な魔法が使える魔法具を用意できるお金があって、かつ魔法の才能もずば抜けている。そんな人間、そういやしないよ」
レベッカはそう言い切ってからティーカップを傾ける。アベリィもレベッカの言い分に頷いた。
「ベッキーの言う通りです。魔法の才能、そして莫大な財産。どちらが欠けても契約魔法の使い手にはなれませんから」
「なるほど」
だからこそ、契約詠唱方式よりも呪文詠唱方式の方が普及しているのだ。
「じゃあ、3人はどうして契約詠唱科に?」
リナリーの質問に、3人の少女はお互いの顔を見合わせた。
「え? だってせっかく超高級な魔法具を無料で契約させてくれるって言うんだよ? 契約詠唱科の方がお得な感じがするじゃん」
と、レベッカ。
「私はもともと魔法が得意ではありませんから、将来は実戦魔法使いではなく、研究職を目指そうと思っています。ですので、見聞を広める意味で」
と、アベリィ。
「お金があったからです」
そしてナンシーである。
「アンが一番不純な理由ね」
「ははは、だろ? こいつ、こう見えてお嬢様なんだよ」
レベッカが笑いながら隣に座るナンシーの頭をぐしゃぐしゃにした。ナンシーは嫌そうな顔をしながらも、視線をリナリーに向ける。
「それで、リナリーはどういった理由なんです? 噂では、入学試験は呪文詠唱方式だったと伺っているです」
「お、それそれ。私もそれ気になってた」
「私も気になります」
ナンシーの質問に、レベッカとアベリィも喰い付く。隠す必要もないので、リナリーは淡々と答えを口にした。
「見聞を広めたいから、という理由だから、アベリィが一番近いかもしれないわね」
「じゃあ、どこかのお嬢様だからとかではなく?」
「私、孤児院育ちだから。親もいないしお金もない」
レベッカの質問に、リナリーは偽りなく答える。
「あ、なんかごめん」
「気にしないで。気にされるほうが気になるわ」
そう言って、リナリーは紅茶を一口飲んだ。
「じゃあ、リナリーは学習院が用意した魔法具で契約するです?」
「そうなるわね」
さっさと話題を変えようと質問してきたナンシーに、リナリーはにこやかに頷いた。それを聞いたアベリィががっくりと肩を落とす。
「……それでよく寮長さんにエンブレム欲しいとか言えましたね」
「あら? それじゃあ寮長は学習院が用意した魔法具で契約したわけではない?」
「そうですね。アンと一緒でご自身の実家が用意した物で契約していますから、高難度の魔法も発現できますよ」
「なるほど。いいわね。その方が燃えるわ」
エントランスで対峙したクロエの佇まいを思い出し、リナリーが好戦的な笑みを浮かべた。
「おぉっと。リナリー、可愛い顔して結構物騒なことを言うんだね」
「そう? 可愛いで言うならベッキーだって十分可愛らしいじゃない」
「よしてくれ。私に可愛いなんて似合わないよ。口調もこんな感じだしね」
リナリーからの称賛に、レベッカは照れたように手をぱたぱたと振った。「ベッキーは十分可愛いです」「そうですよ。もっと自分に自信を持ちましょう」「やめてほんとにそれ以上やめて」と3人でキャイキャイやりだしたのを眺めながら、ふと思った疑問をリナリーが口にする。
「3人とも仲が良いようだけど、同じクラスなのかしら」
「え?」
リナリーからしてみれば素朴な疑問だったのだが、なぜか3人ともびっくりして固まってしまっていた。
「私、何かおかしい事を言ったかしら」
「いや……、おかしいって言うか、何も聞いてないの?」
レベッカからの逆質問に頷く。その反応を見た3人がお互いの顔を見合わせた。そして、代表してアベリィが驚愕の事実を口にする。
「契約詠唱科の8年生は、今ここにいるメンバーで全員ですよ?」
「え?」
今度はリナリーがフリーズする番だった。
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