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「小説家になろう」様にて細々と活動しております、SoLaのブログです。

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リナリーss第9話

☆三行でまとまる、これまでのお話☆

リナリー「火の球って初球のわりに強かったのね。見直したわ」
ルーカス「ほっほっほ」
契約科教師「祭りじゃあああ!」→絶賛継続中







「ふむ。解除していいぞい」

 ルーカスの指示に従い、リナリーは浮かべていた『|火の球《ファイン》』を霧散させた。目で評価を問うてくるリナリーに、ルーカスは大きく頷いた。

 暴走させた後にもう一度『完全詠唱』で発現させたところ、魔法は暴走することなく見事に制御されていた。たまたまできた、と言う可能性も考慮し続けて2回ほど『完全詠唱』で発現させたが、これも全て完璧。リナリーは『|火の球《ファイン》』を完璧に使いこなしていた。

(末恐ろしいまでの才能、じゃな)

 内心でルーカスは戦慄する。
 一度目はあくまで『完全詠唱』という初めての方式故に、魔力をどれだけつぎ込んでいいか分からなかったということなのだろう。その一度だけで感覚を掴んでしまうあたり、天才と表現する他無い。

「それでは、次は『完全詠唱』で発現する数を増やしてみようかの」

 これまでリナリーが発現してきたのは魔法球単体だった。魔法は、詠唱の段階で発現する魔法の威力と数を指定することができる。もっとも、リナリーは呪文詠唱方式ならばいくらでも発現していたわけだが。

 ルーカスが、先ほどリナリーに見せていたメモを再度取り出す。


【契約キー】
『獄炎に坐す怒りの王よ、我と古の契約を』(完全詠唱はここから)

【発現キー】
『万物を燃やす原初の火よ』(省略詠唱はここから)
『司る精霊よ』(ここで発現する魔法の数を指定できる)

『飛翔、焔、敵を貫け』

『火の球』(直接詠唱はここから)


「契約詠唱方式で数を指定する場合、詠唱文にある精霊という単語の前に、発現したい数を入れる。つまり2つの魔法球を発現したいのなら『司る2の精霊よ』となるわけじゃな」

「なるほど。やってみてもよろしいですか」

「うむ。まだ詠唱を破棄することは禁止する。『完全詠唱』で頼むぞい」

 頷いたリナリーが詠唱文を唱える。

「『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』、『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る100の|精霊《せいれい》よ』」

「ん?」

「『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』」

 魔法はリナリーの詠唱文に忠実に応えた。
 リナリーの頭上、そして背後に100発の『|火の球《ファイン》』が発現される。

 当然、驚いたのはルーカスだ。

「ちょ」

「へぇ、こうして数を指定するのですね。明快で分かりやすい。果たしてどのくらいの数を一度に発現できるかについては興味あるわね。……どうかされましたか」

 自らの周囲に浮かぶ『|火の球《ファイン》』の群れを見渡しながら満足そうに頷くリナリーは、咄嗟に障壁魔法を展開しようと身構えたまま硬直してしまっているルーカスにようやく気が付いた。

「先生?」

「……う、うむ。エヴァンスや。それらはしっかりと制御できておるのじゃな?」

「もちろんです。先ほどはみっともない姿をお見せしましたが、『完全詠唱』での魔法発現の感覚は掴めました。暴走の心配は無いと思われます」

「そ、そうか。ならいいんじゃが……」

 例えで口にした通り、ルーカスはてっきり2発の魔法球を同時発現すると思っていたのだ。確かに数を指定しなかったルーカスが悪い。しかし、契約詠唱方式で初めての数指定の練習で、いきなり100発も発現するとは考えもしないだろう。

 そもそも、例え『完全詠唱』したとして100発も一気に発現できる魔法使いが果たして何人この学習院にいるというのか。少なくとも院生の中にはいないだろう。いや、たった今、ルーカスの目の前にいることが判明したわけだが。

 指を鳴らして全ての『|火の球《ファイン》』を霧散させたリナリーは言う。

「私としては数の指定についても問題無いと思うのですが……、もっと数を増やしてみましょうか?」

 肯定したらいったい何百発の魔法球を発現するつもりだ。
 そんな言葉を必死に呑み込んで、ルーカスは首を横に振る。

「い、いや、それには及ばんぞい。うむ。次は詠唱文を徐々に破棄していくかの」

「分かりました」

 ルーカスの動揺を余所に、リナリーは淡々と頷いた。

「『省略詠唱』、『直接詠唱』、そして最後に『無詠唱』という順番でよろしいですか」

「うむ」

 本来、詠唱文を破棄して魔法を発現するには相当な修練が必要だ。契約キーを省略するだけでも年単位の修練を必要とする魔法使いだっているし、生涯にわたって修練したところで『無詠唱』で魔法を発現できない魔法使いだっている。発現する魔法の難易度によって異なるものではあるが、簡単に実現できる技術では無い。

 詠唱文を省略すればするほど、魔法の発現難度は上がる。しかし、リナリーは既に全てをここで実現する気でいる。しかも口調からして「順番にローテーションで回していきますね」程度のノリだ。

 ルーカスはそれを指摘しなかった。
 もはや「こいつなら普通に出来ちゃうんだろうな」くらいに思っている。

「『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』、『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』」

 そして、リナリーは本当にさっくりと『省略詠唱』を成功させた。

 契約キーを省略した魔法の発現。詠唱文の一部を省略することで発現速度を上げる代わりに、発現難度が上がり威力が下がる高等技法。

「うむ、問題無いようじゃな」

 リナリーの頭上に浮かぶオレンジ色をした『|火の球《ファイン》』に、ルーカスがそう評価する。

「ありがとうございます。では、次に行きます」

 言葉通り、成功した感慨に浸ることもなく、リナリーは淡々と魔法を霧散させる。

「『|火の球《ファイン》』」

 そして『直接詠唱』を成功させた。

 対象となる魔法名のみを唱えることで発現させる高等技術。『省略詠唱』より発現速度が早いことの代償に、発現難度はより上がり威力はより下がる。

「……問題無いようじゃな」

「ありがとうございます」

 ルーカスの評価に軽く頭を下げたリナリーは、浮かんでいた『|火の球《ファイン》』を霧散させた。そして、その直後、同じ場所に新たな『|火の球《ファイン》』が生まれた。瞬き1つの間に起こった出来事である。

 ルーカスは数度目をぱちぱちとさせた後、草臥れた拍手を送った。

「そして『無詠唱』じゃな。うむ、何の問題も無いようじゃ」

「ありがとうございます」

 浮かんでいた『|火の球《ファイン》』がリナリーの手によって消える。

「『直接詠唱』と『無詠唱』を既に成功させているお主には、もはや必要無い説明とは思うが、一応話しておくぞい。メモを見ておくれ」

 リナリーに『|火の球《ファイン》』の契約詠唱文が書かれていたメモを見せる。

「『省略詠唱』についてじゃが、詠唱文を省略するにあたり、精霊までの文はあくまで数を指定する際にイメージしやすいようにするためじゃ。そのため、慣れてくるとその部分も省略し『飛翔、焔』という文から唱えることが多くなる。さらに慣れてくると魔法名のみで発現する『直接詠唱』に移る、というわけじゃな」

「精霊までの詠唱文を省略しても『省略詠唱』の威力は落ちないと?」

「うむ。これまの研究結果ではそうなっておるし、わし自身そう実感しておる」

「なるほど。……『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』、『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』、『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』、……『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』、『|火の球《ファイン》』、……確かに、知覚できる範囲で威力が落ちているようには思えませんね」

「そ、そうか。ならよかったわい」

 何が良かったのか、もはやルーカスには分からなかった。ポンポン『|火の球《ファイン》』を発現しては消していくリナリーの才能に、もはや呆れるしかない。

 ただ、ひとまず今日リナリーに教えておこうと思っていたことについては、全て終わらせることができたと判断した。もっとも、今日は基本的に口頭での説明だけで『完全詠唱』を何度か試させて、少しでも感覚を掴んでもらえるといいな、くらいの考えだったわけだが。

 まさか今日で『無詠唱』まで辿り着かれるとは思わなかった。そもそも学習院卒業までの間に『無詠唱』を実現できない院生だっているくらいなのだから。

「これで今日教えることはおしまいかの。ようやったの、エヴァンス」

「色々と勉強になりました。ありがとうございます。魔法の新しい一面に触れられるというのは、実に胸躍るものですね。契約詠唱科を専攻して良かったと思っています」

「そうかそうか。それはなりよりじゃわい。魔法とは実に奥深いもの。今後とも精進するようにの」

「はい。それと、今日契約させて頂いた魔法を発現してみたいのですが、よろしいでしょうか」

 時計を確認しつつ、ルーカスは悩む。
 そろそろ日も暮れるし、リナリーは結構な魔力を使ったはずだ。なにせ途中で100発の魔法球を発現したくらいだ。発現した時点で魔力は消費しているので、射出せずに霧散させたところで消費した魔力は返ってこない。それに、契約詠唱方式は呪文詠唱方式よりも魔力消費が激しい。初めての方式でもあったわけだし、魔力消費もそうだが気疲れもしているのでは、とルーカスは思ったのだが……。

 横目でちらりと窺ってみても、リナリーに疲弊した様子は無い。

 そういえば編入試験の実技では計測ミスかと思われるような数値が並んでいたな、なんてことを思い出しながら、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。

「構わぬよ。存分に試すが良い」

 新しい魔法と契約したのなら、試してみたいと思うのは当たり前の感情だ。リナリーの魔法に対する渇望は、ルーカスにとっても実に好ましいものだった。それに、自分の目が届かない場所でこっそり試されて魔法が暴走してしまえば目も当てられない。

 ここで発現に慣れてくれるのなら、それに越したことは無いだろう。
 ルーカスはそう思った。

 花が綻ぶような笑みを浮かべてお礼を口にし、自分から距離を空けて早速魔法を試し始めるリナリーを、ルーカスは穏やかな笑みを浮かべたまま見続けた。



 そして。
 この日のうちにリナリーは、魔法具と契約した計18の魔法その全てを完全に習得した。

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