【バレンタインss】ルーナ編
テレポーター『そーしそーあいりょーおもい』
「せーや、チョコちょうだい」
「あん?」
師匠からの頼まれ事をさっくりと終わらせた帰り道。並んで歩いていたルーナから袖を引っぱられてそんなことを言われた。
「なんだって?」
「だから、チョコ」
「チョコレートが食べたいのか?」
ルーナがこくりと頷く。
「ほしい」
「そっかー」
さっさと拠点にしているホテルに戻って報告しなければ、と思っていたが、少しくらいの寄り道なら構わないだろう。
「じゃあ、ちょっとスーパーに寄っていくか」
「ん」
ほんの少し。
ほんの少しだけ頬を緩めたルーナが、俺の腕を引っ張りながら先導する。そんなルーナに微笑ましさを覚えながら、俺はされるがままに行き先をホテルからスーパーへと変えた。
☆
「どれが良いんだ?」
ずらりと並んだチョコレートを見ながらルーナに聞く。聞きながら思い出した。今日は2月14日。バレンタインだった。そうか。バレンタインか。……バレンタインの日に俺は女の子(それも幼女)にチョコを渡すのか。
なんかどんよりしてきた。
「んー、これ」
ルーナが指さしたそれは、このコーナーの中でも1,2を争うほどの安さだった。
「もっと高いのでもいいんだぞ?」
幼女が遠慮なんかするんじゃない。
「せーや、それはちがう」
幼女が真面目な顔して俺に向き直った。
そして言う。
「たいせつなのは、きもち」
「……お、おう」
なんかすまん。
幼女に大切な何かを悟らされてしまった気がする。そうだよな。大切なのは気持ちだよな。いくら俺がチョコを貰えないからって不貞腐れてちゃだめだ。
そんなことを考えていたら、カートを押していた金髪美人のお姉さんがこちらを微笑ましい目で見てから進路を変えた。
……大切な何かを失った気がした。
「えーと、じゃあこれでいいんだな?」
気を取り直してチョコを商品棚から取り出しながら聞く。
「ん」
ルーナが頷いた。
そして。
「わたしは、これをかう」
俺が手にしたチョコと同じ銘柄のチョコをルーナが商品棚から取り出した。
なぜだ。
「買ってやるぞ?」
「ん。ありがとう」
「じゃあそれは何だ」
「これは、わたしがかう」
「2個欲しいなら両方買ってやるよ。ほら」
「や」
手を伸ばしたらすごい勢いでチョコを背中に隠された。
なんなのいったい。
「えーと。俺はこのチョコを買うんだよな?」
「ん。ありがとう」
「このチョコはルーナが食べるんだよな?」
「たべる」
「そのチョコはルーナが買うのか?」
「かう」
「そのチョコもルーナが食べるのか?」
「ちがう。このチョコはせーやにあげる」
……。
ん?
「そのチョコを俺にくれるのか?」
「ん」
ルーナが頷く。
「ちょっと待ってくれ」
まじで意味が分からん。バレンタイン……、とは違うよな?
「このチョコは俺が買ってルーナが食べるんだよな?」
「ん」
これは間違っていないらしい。
「で、そのチョコはルーナが買って俺が食べるのか?」
「そう」
これも間違っていないらしい。
つまりどういうことだ。
「じゃあお互い自分で買って自分で食べればいいんじゃないのか?」
「それじゃだめ」
……。
駄目らしい。
「ほら、いこ。せーや」
俺の腕を引っ張り、レジへと先導するルーナ。俺はさっぱり理解できないまま、言われるがままに別々に会計を済ませた。
☆
「はい」
スーパーから出るなり、ルーナからルーナの買ったチョコを手渡される。
「お、おう。ありがとう」
それを受け取りながら、俺が買ったチョコをルーナに手渡す。
「ん。ありがと、せーや」
「ど、どういたしまして?」
疑問形である。
当然だ。
ここに『俺が買ったルーナが買ったチョコと同じ銘柄のチョコを手にしたルーナと、ルーナが買った俺が買ったチョコと同じ銘柄のチョコを手にした俺』という謎の図式が成立した。ごめん。自分でも何を考えているのか分からなくなってきた。
一方、ルーナと言えばこの謎の儀式に満足したのか満面の笑みを浮かべている。
「これでそーしそーあいりょーおもい」
「なんだって?」
「んーん。なんでもない。いこ」
「お、おう?」
ルーナに引っ張られて歩き出す。やたらと上機嫌なルーナにハテナマークを大量に浮かべつつも帰路につく俺だった。
☆
後から知ったのだが。
アメリカでは、基本的に男から女性にプレゼント(ぬいぐるみやメッセージカード、花束など)を渡すのがバレンタインの風習らしい。もちろん、女性から男性にプレゼントする場合もあるようだが、『女性から男性へ』がデフォルトの日本とはやはり違う。おまけにルーナ主催の『謎の同じチョコ交換儀式』が加わったせいで勝手にバレンタインとは無関係だと考えてしまっていた。
そして、そんな話を笑い話としてまりもにしたのが最大の失敗だった。
不公平だなんだと大騒ぎするまりもに、少し離れた所からじっと涙目で見つめてくる栞、そして極めつけは『私はチョコを要求する』とやたらと達筆な日本語で書かれたクロッキー帳を掲げるヴェラの猛攻を受け、俺は再びスーパーへ買い出しに出る羽目になった。
解せない。
Fin
【謎の声】
Web上に、3つのバレンタインssをばら撒いたぞ!!
君は全てを見つけることができるかな?
PR
ssでも。
テレポーター
久しく更新しなくてすみません。
最後に更新したのが4月でもう少しで半年になるとか笑うしかない。
先ほど、ふっとネタが降りてきたので20分程度で書き上げた小ネタ程度のssでも。
登場人物はまりも、ルーナ、そしておまけで聖夜です。
『「こがねいろのせんりつ」のにちじょー』ss
「まりも」
「なぁに?」
ベッドでごろごろしながらファッション雑誌を捲っていたまりもは、その手を止めてルーナへと視線を向ける。
「ひこうきってどうやってとんでるの?」
「え?」
「ひこうきって、どうやってとんでるの?」
「……ん、ん~?」
不意を突いた質問がまた来た、とまりもは思った。
リナリー・エヴァンスが長を務める『黄金色の旋律』における貴重な薬剤師であり、かつ大人びた性格をしているものの、ルーナはまだ少女だ。どんなものにでも興味を持つお年頃なのである。
いつもならリナリーや聖夜、栞、そして共に行動をしているタイミングであればヴェロニカに放り投げるところだが、生憎と今は2人っきりだ。
見ればルーナの後ろ、ホテルのテレビが映しているのは『機内のサービスについて』であり、フライトアテンダントがにこやかにインタビューを受けている。
余計なものを映しやがって、と思わなくもないまりもだったが、今はこの状況を切り抜ける方が重要だった。
まりもは飛行機がどうやって飛んでいるかなんて知らない。車だって電車だって、便利な乗り物だという認識を持ってはいるが、その構造にまで興味を持っていないからだ。
ルーナはそれはもう注意深く凝視してみれば若干というか微妙というかとにかくささやかながらきらきらした目で回答を待っている。
ここで「分からない」と素直に答えられるほど、まりもの神経も図太くなかった。
「え、え~と。ね、ねえ、ルーナちゃん。走り幅跳びって知ってる?」
「ん。スポーツ」
「そうそう。あれってなんで助走をつけるかは分かる? というか、助走って知ってる?」
「しってる。じょそうつけると、とおくへとべる」
「そうそう。飛行機も同じだよ。助走をつけてるから遠くへ飛べるんだよ~」
純度100パーセント嘘である。
当然、まりもだってこれで騙せるとは思っていない。むしろ、「そんなわけない。まりも、うそつき。しらないんだ」と冷たい言葉を投げかけられることで話を丸め込むつもりでいた。
しかし。
「じゃあ、にんげんもおなじだけじょそうをつければとべるの?」
こんな質問が返ってきてしまった。
「えっ」
「にんげんもおなじだけじょそうをつければとべるの?」
まりもは自らの完璧なる計画が脆くも崩れ去ったことを自覚した。しかし、今更「それは嘘だよ~」とは言い出せない。なぜなら、ルーナはそれはもう注意深く凝視してみれば若干というか微妙というかとにかくささやかながらきらきらした目で回答を待っているのだ。
「そ、そう、……だよ」
まりもは視線を外しながらそう答えた。
☆
「あん? なにやってんだ、ルーナ」
ホテルに戻ってきてみれば、ルーナが室内を縦横無尽に駆け回っていた。
「あ、せーや」
ててて、と寄ってくる。空調が効いているにも拘わらず、ルーナの額には汗がにじんでいた。呼吸も荒い。本当になにしてんだこいつ。
「まだ、とべない。せーやはとべる?」
跳ぶ?
「まあ、時と場合によるが、跳べるな」
座標さえ固定できれば一瞬だ。今更俺の無系統魔法がどうかしたのだろうか。
「……さすが、せーや。わたしも、がんばる」
ぐっ、と握りこぶしを作るルーナ。
「お、おう。がんばれ」
何を頑張るのかは知らんけど。
……あれ?
部屋を見渡してみてもまりもの姿が見当たらない。
再び走り出したルーナに聞いてみる。
「ルーナ。まりも、どこ行ったか知ってるか?」
「ちょっとでてくる、っていって、かえってこない」
「ふぅん……」
また師匠に無茶ぶりでもされたんかね。
ちょこまかと走り回るルーナを愛でつつ、俺は買い漁ってきた日用品の整理を始めた。
最後に更新したのが4月でもう少しで半年になるとか笑うしかない。
先ほど、ふっとネタが降りてきたので20分程度で書き上げた小ネタ程度のssでも。
登場人物はまりも、ルーナ、そしておまけで聖夜です。
『「こがねいろのせんりつ」のにちじょー』ss
「まりも」
「なぁに?」
ベッドでごろごろしながらファッション雑誌を捲っていたまりもは、その手を止めてルーナへと視線を向ける。
「ひこうきってどうやってとんでるの?」
「え?」
「ひこうきって、どうやってとんでるの?」
「……ん、ん~?」
不意を突いた質問がまた来た、とまりもは思った。
リナリー・エヴァンスが長を務める『黄金色の旋律』における貴重な薬剤師であり、かつ大人びた性格をしているものの、ルーナはまだ少女だ。どんなものにでも興味を持つお年頃なのである。
いつもならリナリーや聖夜、栞、そして共に行動をしているタイミングであればヴェロニカに放り投げるところだが、生憎と今は2人っきりだ。
見ればルーナの後ろ、ホテルのテレビが映しているのは『機内のサービスについて』であり、フライトアテンダントがにこやかにインタビューを受けている。
余計なものを映しやがって、と思わなくもないまりもだったが、今はこの状況を切り抜ける方が重要だった。
まりもは飛行機がどうやって飛んでいるかなんて知らない。車だって電車だって、便利な乗り物だという認識を持ってはいるが、その構造にまで興味を持っていないからだ。
ルーナはそれはもう注意深く凝視してみれば若干というか微妙というかとにかくささやかながらきらきらした目で回答を待っている。
ここで「分からない」と素直に答えられるほど、まりもの神経も図太くなかった。
「え、え~と。ね、ねえ、ルーナちゃん。走り幅跳びって知ってる?」
「ん。スポーツ」
「そうそう。あれってなんで助走をつけるかは分かる? というか、助走って知ってる?」
「しってる。じょそうつけると、とおくへとべる」
「そうそう。飛行機も同じだよ。助走をつけてるから遠くへ飛べるんだよ~」
純度100パーセント嘘である。
当然、まりもだってこれで騙せるとは思っていない。むしろ、「そんなわけない。まりも、うそつき。しらないんだ」と冷たい言葉を投げかけられることで話を丸め込むつもりでいた。
しかし。
「じゃあ、にんげんもおなじだけじょそうをつければとべるの?」
こんな質問が返ってきてしまった。
「えっ」
「にんげんもおなじだけじょそうをつければとべるの?」
まりもは自らの完璧なる計画が脆くも崩れ去ったことを自覚した。しかし、今更「それは嘘だよ~」とは言い出せない。なぜなら、ルーナはそれはもう注意深く凝視してみれば若干というか微妙というかとにかくささやかながらきらきらした目で回答を待っているのだ。
「そ、そう、……だよ」
まりもは視線を外しながらそう答えた。
☆
「あん? なにやってんだ、ルーナ」
ホテルに戻ってきてみれば、ルーナが室内を縦横無尽に駆け回っていた。
「あ、せーや」
ててて、と寄ってくる。空調が効いているにも拘わらず、ルーナの額には汗がにじんでいた。呼吸も荒い。本当になにしてんだこいつ。
「まだ、とべない。せーやはとべる?」
跳ぶ?
「まあ、時と場合によるが、跳べるな」
座標さえ固定できれば一瞬だ。今更俺の無系統魔法がどうかしたのだろうか。
「……さすが、せーや。わたしも、がんばる」
ぐっ、と握りこぶしを作るルーナ。
「お、おう。がんばれ」
何を頑張るのかは知らんけど。
……あれ?
部屋を見渡してみてもまりもの姿が見当たらない。
再び走り出したルーナに聞いてみる。
「ルーナ。まりも、どこ行ったか知ってるか?」
「ちょっとでてくる、っていって、かえってこない」
「ふぅん……」
また師匠に無茶ぶりでもされたんかね。
ちょこまかと走り回るルーナを愛でつつ、俺は買い漁ってきた日用品の整理を始めた。
カレンダー
ブログ内検索
カウンター