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「小説家になろう」様にて細々と活動しております、SoLaのブログです。

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先日は私の気まぐれで行ったアンケートにご協力頂き、ありがとうございました。魔法世界エルトクリアが大好きな皆様へ、わたくしめからのちょっとした気持ちです。

 次章『修学旅行編(仮)』のさわりの一場面をちょこっとだけ先行公開させて頂きます。
 但し、読むにあたり、恐れ入りますが注意事項を。

1.推敲などまったくしていないので誤字脱字がたくさんあるかもしれない。
2.あくまで(仮)のため、実際に公開された時は内容が変わっているかもしれない。
3.あくまで(仮)のため、実際に公開された時は章自体のテーマが変わってるかもしれない。
4.本編再開の目処がはっきりしていないので、本公開されるのが半年後とかもあり得るかもしれない。

 以上の注意事項を踏まえた上で、「(仮)でもいいし公開されるのが1000年後だって構わない次章がどんな感じに進んでいくのかとにかく知りたいんだこのやろうさっさと読ませてくれい!」と思ってくださる方は、先へお進みください。

 なお、このページがブログ《更新情報》に出ていないのと、本文でルビが正常に機能していないは仕様です。ご了承ください。















































































































『テレポーター』 第9章 修学旅行編〈上〉 第?話 依頼 (仮)







「護衛の依頼だ。君の師匠には既に話をつけてあるが、もちろん拒否してもらっても構わない」

 窓から差し込む夕陽を背に、重厚なデスクに坐すのは日本五大名家が一、花園家現当主の|花園《はなぞの》|剛《ごう》。身分的に天と地ほども差のあるその人は、自らの書斎に俺を招き入れるなりそう言った。

 護衛。
 どう考えてみても、俺の実力に見合った仕事とは思えない。

 苦い記憶が蘇る。
 この学園にやってきて、早々に巻き込まれた可憐の誘拐騒動の記憶だ。

 確かに、あの時に比べれば俺は格段に強くなっただろう。これは断言できる。色々な経験を積んできたし、危ない橋だっていくつか渡っている。同じような事件が起きれば、あの時のようにはならないのは間違いない。

 しかし……。 

「まあ、まずは話を聞いてもらいたい。先にこちらを伝えておくべきか」

 俺の否定的な雰囲気を敢えて無視しているのか、剛さんは手元の資料を数枚捲りながら続ける。

「|青藍《せいらん》魔法学園2年生の修学旅行先が決定した。魔法世界だ」

 ……。

「は?」

 内容を理解するのに数秒を要してしまった。思わず間の抜けた声が漏れた俺を見て、剛さんが苦笑する。

「君の考えは理解できるぞ、|聖夜《せいや》君。正直、先方が良く許可したものだと俺も感心してしまったよ」

「しかし、本当に許可が下りたようだ」と剛さんは言った。

「……魔法世界側に打診している状態だったから、修学旅行先が未定のままだったのですね」

 出発まであと一週間しかない。もともと行き先は海外のどこかとだけ使えられていたため、皆パスポートだけは準備していた。ただ、それ以上の情報が一向に入ってこなかったため、何か問題でも生じているのかと心配していたほどだ。

「そんなところだ。|姫百合《ひめゆり》の方がうまくやったらしいがな。週明けの明日にでもこの情報は学園生に公開されるだろう」

「なるほど」

 剛さんの言う護衛の依頼。
 つまり、魔法世界での修学旅行中に|舞《まい》を守れということだろう。

 俺の中で結論が出る。
 この依頼は受けるべきではない。

 確かに俺は強くなった。
 あの時よりも格段に。

 身体強化魔法や全身強化魔法といった強化系魔法だけではなく、魔力そのものを武器として扱う“|不可視《インビジブル》シリーズ”に『独自詠唱』によって俺では実現不可能な魔法発現を可能とする|MC《ウリウム》、そして奥の手である無系統魔法。しかし、これだけの手札を用意したって勝てない相手はいる。

 俺に圧倒的に不足しているもの。それは経験だ。
 魔法は扱う人間の技量によっていくらでも応用が利く。

 しかも、今回の依頼は前回と明確に違うところがある。
 学園の庇護下に無い。更に言うなら、日本国外での任務だということだ。

 当然、この学園のような結界は無い。魔法世界にも防護結界はあるが、「関係者以外立ち入り禁止」にできるこの学園ほど出入りする人間を制限できるわけではないし、実際にあの犯罪集団『ユグドラシル』の面々が中にいたことも事実。

 舞はこの国の最高戦力『|五光《ごこう》』の血を継ぐ、正当な後継者だ。それも次期当主候補序列1位。本来なら俺のような人間が気安く話しかけられるような存在ではないのだ。国外をまともな護衛無しでうろつこうものなら、路地裏どころか白昼堂々大通りで誘拐騒ぎに発展してもおかしくはない。

 自分の命1つ懸けることすら危うい立場にいる俺が、他人の命を預かれるはずがない。

「既に想像はついているだろうが、依頼について説明しよう。君には修学旅行中の護衛を頼みたい。但し、護衛対象者は舞だけではない」

 ……なんだって?

 俺が聞き返すより早く、書斎の扉がノックされた。
 やって来たメイドは丁寧に一礼した後に、剛さんへこう告げる。

「|姫百合《ひめゆり》|美麗《みれい》様がお出でになりました」

 ……。
 護衛?
 対象は舞だけではない?

 無理に決まってんだろ。

 そんな俺の心情を余所に、メイドが扉の前から一歩引いた。

 扉の外で待っているであろう客人を中へと促すわけでもなく、道を譲るようなわけでもない。
 単純にただ一歩、扉から遠ざかるためだけに動いたような。
 その仕草に僅かながらの違和感を覚える。

 瞬間。

 開かれた扉の外。
 死角となっていた場所から、突如としてこちらへと突っ込んでくる影を捉えた。

 ――――"|神の書き換え作業術《リライト》"、発現。

 突き込まれた手刀が俺の残像を容赦なく貫くのを眺めながら、乱入者の脚を払う。この女、しっかりと身体強化魔法まで使ってやがる。無防備なまま喰らっていれば俺の喉に風穴が空いているところだぞ。

 座標の書き換え先は、先ほどまで俺が立っていた位置からほとんど変わっていない。
 すぐ隣だ。

 高速での移動中に掛けられた足払いは予想外の反撃だったのだろう。女の顔に驚愕の色が張り付いている。バランスを崩した上半身が前のめりに倒れ込み――。

 歪む、女の口角。

 振り上げられた女の右脚を一歩後退することで回避する。女はそのまま両手を床につけ、両足を広げて独楽のように回転し出した。おかげでスカートの中の純白が全開である。

 少しは羞恥心を持て。
 こちらを傍観するだけの剛さんも苦笑いだ。

 遠心力が弱まり脚を床につけようとするタイミングを狙って、威力を絞った"|不可視の弾丸《インビジブル・バレット》"を撃ち込んだ。思いの外可愛らしい悲鳴と共に、女の身体が転倒する。

 女が身体を起こすよりも、俺の人差し指が女の額を小突く方が早かった。

「そこまでだ」

 俺の一言に女の身体が硬直する。女の頭から|カチューシャ《、、、、、、》がずれ落ちた。

「まだやるって言うなら相手になってやらんでもないが、場所は変えたい。ここが『五光』が一、花園家現当主の書斎だと分かった上での行動なんだろうな?」

 問答無用で場所を変えさせても良いが、肝心の剛さんがあの調子だと暗殺者の類では無さそうだ。となると、先ほど名の挙がっていたあの人の差し金だろう。

「これは何の真似ですか、美麗さん」

「あらあら、全部お見通しということなのかしら」

 視線の先、ゆっくりと剛さんの書斎に姿を見せたのは|姫百合《ひめゆり》|美麗《みれい》。日本五大名家『五光』に名を連ね、世界から『氷の女王』として絶賛される大魔法使いだ。

 少しも悪びれた様子を見せない美麗さんは、微笑みを携えたまま転がったメイドへと視線を向けた。

「随分と鮮やかに仕留められてしまいましたね。|理緒《りお》さん」

「申し訳ありません。正直、ここまで鮮やかに無力化されるのは予想外でした」

 素早い身のこなしで立ち上がったメイドが言う。そして正面から俺と向き合った。

「|大橋《おおはし》|理緒《りお》と申します。突然の無礼をお許しください」

 メイドが一礼する。

 ん?
 この人、どこかで……。





《つづく……、きっと》

拍手[113回]

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リナリーss第7話

〈ひとこと〉
 誤字報告をして下さった方、拍手やコメントを下さった方、感謝です!!



☆三行でまとまる、これまでのお話☆

リナリー「ひとまず5番げっと」
契約科教師「祭りじゃあああ!」ウォォォォォ!!
アメリア「クーリングオフ! クーリングオフ!」







 契約詠唱科の院生がお祭り騒ぎに興じている頃、リナリーは教師と共にとある教室を訪れていた。厳重なセキュリティによって保護されていた室内は、壁一面が棚のようになっており、数々の魔法具が綺麗に並べられている。

「これらが契約に使用する魔法具ですか」

「その通りじゃ」

 リナリーの言葉に高齢の教師は頷いた。

「さて」

 興味深そうに魔法具を見て回るリナリーに、教師は改めて口を開く。

「お祭り騒ぎになっていたせいで授業にならんかったからな。そもそもの話から入るが……。エヴァンスや、呪文詠唱と契約詠唱の違いについては理解しておるかの」

「現代式呪文詠唱と古代式契約詠唱とでは、そもそも魔法発現のプロセスがまったく異なります。呪文詠唱は、呪文を詠唱することによって体内の魔力を活性化させて魔法を発現させます。対して契約詠唱は、契約文を詠唱することで世界の理に働きかけ、事象改変を促すものです」

 教師はリナリーに続けるように促す。

「例えば、火を起こすには本来火種が必要です。呪文詠唱は自らの魔力を用いて火そのものを生み出します。契約詠唱は、その詠唱により火が本来起こるべき事象へと改変させ、改変前と改変後の矛盾点の帳尻を合わせるために詠唱者の魔力を使うことになります。つまり、契約詠唱の場合、自らの魔力が直接魔法に変わるわけではありません。事象改変の手助けをしている、と表現することが的確かと思います」

 リナリーは整頓された魔法具へ視線を移しながら続ける。

「契約詠唱のメリットは、魔法センスが無くても魔力容量さえあれば最低限の魔法は発現できることです。契約文を唱えれば、後は勝手に魔力が吸い出されるわけですから。もっともセンスがあった方が効率的に魔法発現できるでしょう。デメリットとしては、最低でも2つの魔法具と契約を交わさなければならないことでしょうか。対して呪文詠唱は、魔法具と契約せずとも魔法は発現できるというメリットがあるものの、デメリットとしてそれは魔法使いのセンスに左右されてしまう、というところですね。あぁ、あと呪文詠唱と契約詠唱では、同じ魔法を発現しても契約詠唱の方が魔力消費が多いと聞いたことがあります」

「うむ。満点じゃな」

 白髭を撫でながら、教師はにこりと笑った。

「契約詠唱は古代式、呪文詠唱は現代式と現在では呼ばれておる。契約詠唱が世に普及しなかった理由は3つ。1つ、実戦として使えるだけの魔法具を揃えるのに、莫大な労力と資金が必要であること。2つ、契約詠唱には呪文詠唱以上の魔力が必要であること。3つ、契約した魔法具が破壊された場合、対象となる魔法が使えなくなること」

 そこまで説明したところで教師から笑みが消える。
 真剣な面持ちで教師は尋ねた。

「エヴァンス。お主の魔法センスについてはわしも聞いておる。契約詠唱を選択するだけのメリットをお主が受けられるようには思えん。むしろ足枷となるじゃろう」

 入手困難な魔法具が揃っている、もしくは揃えるだけの資金がある。
 魔法センスは無いが、魔力はある。
 そもそも呪文詠唱では体内の魔力が呼応しない。
 などなど。

 契約詠唱に手を出す魔法使いは多くは無いがいることはいる。しかし、その誰もが何かしらの理由を持っているものだ。しかし、リナリーにはそういった理由がない。

 孤児院育ちで資金は無い。援助してくれる親もいない。
 魔法センスはずば抜けている。既に編入初日で学習院の五本指に入った。
 呪文詠唱者としては破格の才を持っていると言っても過言ではない。  

 契約する魔法具は学習院保管であるため破壊される可能性は低いだろう、というところくらいか。もっとも、それがリナリーだけのメリットになるというわけでもない。

「それでも契約詠唱科ということでよいのかの?」

「はい。私の知的好奇心が満たせる。それ以上のメリットはありません」

 即答だった。
 一瞬きょとんとした表情を見せた教師だったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「よう言うた。では、順に契約して貰おうかの」

「よろしくお願いします」

 リナリーは優雅に一礼した。







 部屋にあった木造りの机に案内されたリナリーは、言われるがままにそこに腰かける。
 その机に教師が1つの魔法具を持ってきた。

 大きく空いた口。
 漂う異質な魔力と錆びた鉄の臭い。
 古めかしくも綺麗に磨き上げられた金の胴。
 大袈裟なまでの装飾。
 左右対称に取り付けられた大きな取っ手。

「聖杯じゃ。『アギルメスタの聖杯』という。込められた属性は『火』」

 契約詠唱に用いる魔法具は2種類。
 聖杯と巻物である。

 聖杯と契約を交わすことで、対象となる属性魔法が契約詠唱で使用可能となる。但し、使用可能と言ってもあくまで許可が出るだけで、魔法が使えるようになるわけではない。

 聖杯に契約した後は、今度は巻物と契約する。それは『魔法球』であったり『障壁魔法』であったり『治癒魔法』であったりと様々だ。1つ巻物に記されている魔法は1種類。異なる魔法を使いたければそれぞれの巻物と契約する必要があるということだ。

 そして、聖杯と巻物は属性ごとにそれぞれ魔法具も異なる。つまり、『水』の巻物と契約したところで『火』の聖杯としか契約できていなければ『水』の巻物に記された魔法は発現できないということだ。

「これからお主には基本五大属性である『火』、『風』、『雷』、『土』、そして『水』の魔法具と契約してもらう。特殊二大属性の聖杯もあるにはあるが、契約詠唱初心者にはまずこの5つを使いこなすところから始めておる。よろしいかな」

「もちろん、異論はありません」

 今日一日でリナリーはさんざん持て囃された。

 特例で院生には契約させていない魔法具もさせるべきだ、と主張した教師もいた。しかし、その中でもリナリーの正面に立つこの高齢の教師のみはリナリーを特別扱いしなかった。担任だったからという理由だけでは無い。自分を平等に扱ってくれそうな教師だったからこそ、リナリーはこの場にこの教師を連れてきたのだ。

 特別扱いされた院生が強くなるのは当然だ。
 だからこそ、リナリーは特別扱いされない状態で頂点を目指す。

「良い返事じゃ」

 高齢の教師は朗らかに笑ってから、聖杯の隣に銀のナイフを置いた。

「魔法具との契約には血を使う。血を聖杯に捧げるのじゃ。一滴で構わんから、深く切る必要はないぞい。親指の腹をちょっと切るだけでいいじゃろう。そして詠唱を捧げる。属性ごとに変わるが、火属性、アギルメスタの聖杯はこうじゃ。『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』」

「……そういえば、契約詠唱の詠唱キーは日本語でしたか」

「そうじゃな。エヴァンスや、日本語は?」

 詠唱文を聞いたリナリーはそう口にした。これまで完全無欠な存在感を示していたが故にうっかりしていた、という表情で教師が聞いたが案の定杞憂に終わる。

「契約詠唱科を専攻しようと考えた日から勉強していました。問題はありません」

「そうか。では、やってみようかの」

「分かりました」

 頷いたリナリーがナイフを右手に持ち、左手の親指へと添える。プツッという小さな音と共に、赤い血の球が膨らんだ。それを聖杯の上から垂らす。

 そして。

「『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ。|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』」

 どくん、と。
 リナリーは、自らの心音が一度だけ大きく聞こえた気がした。

「血が乾いてしまう前にどんどん行こうかの」

 教師がアギルメスタの聖杯を片付け、次の聖杯を用意する。

「聖杯に唱える詠唱は、契約詠唱における『契約キー』と言うてな。これから契約詠唱を使う上でずっと詠唱していくものじゃ。しっかりと憶えておくのじゃぞ」

「分かりました」

 無論、リナリーは既に暗記している。
 興味を持ったことには妥協しないのがリナリーのスタンスだ。

 こうして、リナリーは基本五大属性と呼ばれる5つの聖杯との契約を終えた。
 以下が今日リナリーが契約した聖杯の種類とそれの『契約キー』である。


【火属性】アギルメスタの聖杯
『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』

【風属性】ウェスペルピナーの聖杯
『|蒼空《そうくう》に|坐《ざ》す|恵《めぐ》みの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』

【雷属性】グランダールの聖杯
『|積乱《せきらん》に|坐《ざ》す|轟《とどろ》きの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』

【土属性】ガングラーダの聖杯
『|地底《ちてい》に|坐《ざ》す|祈《いの》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』

【水属性】ウリウムの聖杯
『|大海《たいかい》に|坐《ざ》す|癒《いや》しの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』


 5つの聖杯との契約を終えたリナリーは、そのまま椅子に座っていた。教師が聖杯を全て片付け、2本の巻物を持ってくる。

「特に何かが変わった感じはしませんね」

 自らの手のひらを見つめながらリナリーはそんなことを言った。教師が笑う。

「ほっほっほ。それはそうじゃろう。身体の造りが変わったわけでもあるまいし。エヴァンスや。これでお主は基本五大属性の契約詠唱を行う権利を得たわけじゃ」

 そう言って教師が机の上に2本の巻物を並べた。全て赤色で中央を紐で縛られている。

「今度は巻物との契約じゃな。今持ってきたのは学習院で契約詠唱初心者に貸し出す、火属性の巻物じゃ」

 そのうちの1つをリナリーが手に取る。年季の入ったそれはひどく汚れていたが、辛うじて文字は読むことができた。

「『火属性(魔法球):「火の球」』」

「そうじゃな。その巻物には火属性を付加した魔法球『|火の球《ファイン》』の魔法が記されておる。そして……」

 教師が別の巻物を手に取り、そこに書かれている文字をリナリーに見せる。

「これがその魔法球よりワンランク上の魔法球、『|業火の弾丸《ギャルンライト》』が記されている巻物じゃ。つまり、同じ属性でいくつも種類がある魔法球も、『魔法球』という1つの括りでは扱ってくれないということじゃな」

 同じ属性の魔法球でも、球、弾丸、砲弾と段々威力が上がっていく。他に貫通性能を付加させた貫通弾や、射出した後も操作できる誘導弾などもある。それら全てが使いたければそれぞれの巻物と契約を交わさなければいけないということだ。

「なるほど」

 リナリーは頷く。
 契約詠唱が実戦向きではないというのはこういうところからだ。一人前の契約詠唱者となるには、いったいどれほどの巻物を用意しなければいけないというのか。

「さて。それでは巻物と契約をしていこうかの。今度は詠唱の必要は無いぞい。巻物の中にあるサークルに血を垂らすだけでいい」

 言われた通りに紐を解き、巻物を開くリナリー。
 中にはこう書かれていた。

『万物を燃やす原初の火よ』
『司る精霊よ』

『飛翔、焔、敵を貫け』
『火の球』

「そこに書かれているのが『発現キー』と呼ばれるものじゃ」

 契約詠唱は『契約キー』と『発現キー』によって成り立つ。『契約キー』を唱えることでどの属性を扱うのかを、そして『発現キー』を唱えることでどの魔法を使うのかを決める。

 つまり、リナリーが今手にしている『|火の球《ファイン》』を発現したければ、

『|獄炎《ごくえん》に|坐《ざ》す|怒《いか》りの|王《おう》よ、|我《われ》と|古《いにしえ》の|契約《けいやく》を』

『|万物《ばんぶつ》を|燃《も》やす|原初《げんしょ》の|火《ひ》よ』
『|司《つかさど》る|精霊《せいれい》よ』

『|飛翔《ひしょう》、|焔《ほむら》、|敵《てき》を|貫《つらぬ》け』
『|火の球《ファイン》』

 と唱える必要があるということだ。
 もっとも、上級者になると詠唱の一部を破棄したり、全ての詠唱を省略したりと、詠唱する量を調節することも可能だ。

 発現キーの隣には、教師の言っていたサークルが書かれた場所がある。そこは既に数えきれないほどの血の跡がついていた。魔法具は1つにつき契約は1回というわけではないということだ。

 血を垂らして契約を終えたリナリーから巻物を受け取った教師は言う。

「さあ、何せ数があるからの。どんどん行こうかの」

 言われるがままに学習院側から初心者に提供される巻物に契約をしていくリナリー。途中、何度か親指を切り直し、何とか全ての契約を終える。

 以下が今日リナリーが契約した巻物の数々である。


【火属性】
魔法球:『|火の球《ファイン》』RankC
魔法球(強化):『|業火の弾丸《ギャルンライト》』RankB
魔法球(貫通強化):『|業火の貫通弾《グリルアーツ》』RankB

【風属性】
魔法球:『|風の球《ウェンテ》』RankC
捕縛:『|風の蔦《ウェンテ》』RankC
身体強化:『|風の身体強化《ウェンテ》』RankB

【雷属性】
魔法球:『|雷の球《ボルティ》』RankC
捕縛:『|雷の蔦《ボルティ》』RankC
身体強化:『|雷の身体強化《ボルティ》』RankB

【土属性】
魔法球:『|土の球《サンディ》』RankC
障壁:『|土の壁《サンディ》』RankC
障壁(強化):『|堅牢の壁《グリルゴリグル》』RankB

【水属性】
魔法球:『|水の球《ウォルタ》』RankC
治癒:『|水の輪《ウォルタ》』RankC
治癒(強化):『|激流の輪《ヒーラ》』RankB


 魔法にはそれぞれランクがある。
 下はRankEから、D、C、B、A、Sと上がり、一番上にMとなる。

「想像以上の数と種類でした」

「そうかの? これでも全体の数で言うとお話にならん数じゃ。5属性で15本と聞けばそれなりの数かもしれんがのぉ」

「いえ、学習院側からは最低限のものしか提供してもらえないと聞いていましたので」

「実践で使うとなると手数が少ないと思うが?」

「これだけあれば十分です」

「ふむ。まあ、魔法も使い方次第じゃからな」

 リナリーの言葉に頷きながら、教師は丁寧に巻物の紐を縛り直した。

拍手[101回]

リナリーss第6話


☆僅か一行でまとまる、これまでのお話☆

アベリィ「番号持ちはゴミ!」







 朝7時。
 けたたましいアラームの音が室内に鳴り響く。

 二段ベッドの上で寝ていたリナリーが、ゆっくりと目を開いた。

「……知らない天井ね」

 見覚えの無い風景に、思わずそう呟く。何やら身体が重いなと見てみれば、昨日寝る直前まで読んでいた学習院の教科書が、開かれた状態で自らの胸元に乗っていた。どうやら寝落ちしてしまったらしい。

 折れてしまったページを直しつつ、ゆっくりと上半身を起こす。リナリーの綺麗な金髪が、僅かに天井に擦れた。

「……ん」

 固まってしまった身体を解しながら、あくびを1つ。そして、いつの間にか鳴り止んだ目覚まし時計と「これでよし」という誰かの謎の独り言に興味を持ち、二段ベッドの下段へと目を向けた。

 そこには、目覚まし時計から電池を抜き取ったまま眠りについたルームメイトのアベリィがいた。

「いや、よしじゃないでしょう……」

 本日、リナリーの学習院デビューである。







 12年制の王立エルトクリア魔法学習院は、8年生から呪文詠唱科と契約詠唱科の2つに分かれて勉強することになるが、その比率は5対5ではない。9対1でも若干盛ってるかな、というくらいには契約詠唱科の人数は少ないのである。

 なので、リナリーのクラスメイトと言えば、ルームメイトであるアベリィに加えて……。

「アベリィにリナリー、おはよー」

「おはようです」

 寮塔の共同スペースである談話ルームで落ち合ったレベッカとナンシーで全員になる。つまり、今年度、契約詠唱科を志望したのはリナリーを除いて3人だけだったということだ。

「今日は午後から冬になるかもしれないってさ。ちゃんとローブ持った?」

「ええ、ご心配なく」

 リナリーは談話スペースのソファに掛けていた学習院指定のローブを指さした。

 魔法世界エルトクリアでは、他の国よりも高濃度の魔力が発生・停滞しているが故か、天気どころか季節すらも滅茶苦茶に到来する。今朝の天気予報士曰く、本日の天気は『春のち冬、晴れ時々曇り』である。

 白のワイシャツに赤のチェックが入ったスカート、そして胸元に校章が入った黒のブレザー。片手に学生鞄と焦げ茶色のローブ。これが本日の登校スタイルであった。

 寮塔にある食堂で軽めの朝食を済ませ、穏やかな日差しを浴びつつ、寮塔から契約詠唱科の塔へと移動する。本来の始業時間は9時だが、リナリーは初日と言うこともあり早めに出てきていた。もちろん、早めに出てくる事で噂の新入生への注目を集めないようにする、という狙いもある。



 そしてもちろん。
 そんな気休めのような対策は無駄だった。



「お前がリナリー・エヴァンスか」

 契約詠唱科の塔の門前で、1人の男が仁王立ちで待ち構えていたのである。

 リナリーたちの進路を妨害したのはその男1人だが、その場にいたのはその男だけではない。リナリーやその男を遠巻きに眺めるようにして人だかりができつつある。リナリーを見たギャラリーは男女問わず「あれが噂の転入生か」「可愛い」「教師再起不能にしたってマジ?」「彼氏いるのかな」「お人形さんみたい」など言いたい放題である。

「……貴方は?」

 ギャラリーの声など意識の外。
 目上の先輩に見える男に対しても物怖じ1つせず、リナリーは耳にかかった髪を掻き揚げながら問う。

「『|5番手《フィフス》』のオリバーだ。これ以上の紹介が必要か?」

「……やば」

 リナリーの後ろで、レベッカが小さい声でぼそっと呟いた。このタイミング、そして初対面であるリナリーの前にこの態度で登場した理由など、昨日の一件以外にあり得ない。

「聞いたぜ、新顔。『|番号持ち《ナンバーズ》』入りを目指してクロエに喧嘩売ったって?」

「売ってません」

「あ?」

 ここで否定されるとは思っていなかったのか、オリバーがフリーズする。そんな反応を見つつ、リナリーはこう続けた。

「ただ、クロエ先輩の持つエンブレムを奪う方法を聞いただけです」

「それを喧嘩売ったって言うんだよ!!」

 まったくもってオリバーの言う通りである。
 様子見のギャラリーはおろか、リナリーの連れである3人もそう思ったに違いない。

「ふっ……、ふふふ。随分と煽ってくれるじゃねーか、新顔。この学習院で長生きしたけりゃ、自分より強い奴には服従するべきだぞ」

 威圧するように口にするオリバーに、リナリーは怯えるどころか首を傾げた。

「年功序列ではなく?」

「あ? 聞いてないのか? この学習院じゃ力が全てだ。『|番号持ち《ナンバーズ》』と番外ってのは天と地ほどの差があるのさ」

「ふぅん。そうですか。それで用件を聞いても?」

「ちょ、ちょっとリナリーさんっ」

 淡々と会話を進めるリナリーに肝を冷やしたのか。
 後ろからアベリィが止めに入ろうとするが、それをリナリーは手で制した。

「ご存知でしょうが、私は今日が登校初日なんです。余計な時間を費やしたくありません。有体に言って、邪魔です」

「おぉおぉおぉいぃいぃいぃ……」

 着飾らないドストレートな発言に、レベッカは綺麗なヴィブラードを刻んだ呻き声を上げる。アベリィもナンシーも、ついでに言えばギャラリーの反応も似たようなものだった。

「やっぱり、ガツンとやってやる必要があるみたいだな」

 頬をひくつかせながら、オリバーが言う。
 リナリーが端正な眉を吊り上げた。

「それはどういう意味でしょう」

「お灸を据えてやるって言ったんだ。面貸せ」

 契約詠唱科の塔ではなく、学習院の運動場がある方角へとオリバーが親指を向ける。エルトクリア学習院の上位5名に入る絶対者、『|番号持ち《ナンバーズ》』からの宣戦布告。
 身の程を弁えた普通の学習院生ならば裸足で逃げ出すようなシチュエーションだが――。

「それって、私と決闘してくれるってこと?」

 宣戦布告を叩きつけられたのは、残念ながらこのリナリー・エヴァンスである。
 当然、反応は嬉々としたものだ。

「してくれる、だぁ? 随分と面白い言い回しだな。その通り。決闘してやるってことだ」

 青筋立てて頷くオリバーに、リナリーは同性さえも見惚れてしまうほどの妖艶な笑みを浮かべた。

「なるほど、なるほど」

「リ、リナリー、さん?」

 恐る恐る声を掛けてくるアベリィに荷物を預け、なぜか若干顔を赤らめたオリバーの先導で運動場へと向かうリナリー。



 そして。
 リナリーは、入学した初日の登校途中に『|5番手《フィフス》』のエンブレムを手に入れた。







「け、契約詠唱科8年、リナリー・エヴァンスが『|番号持ち《ナンバーズ》』入りしました。番号は5です」

「……は?」

 放課後である。

 この時間まで学習院外で仕事をしていた理事長であるアメリアは、ようやく自らの理事長室へと戻ってきていた。溜まっていた事務処理をこなしながらも不安要素は1つである。書類にハンコを押す手を止め、今日一日の様子でも聞かせてもらうかと呼び鈴を鳴らそうとしたところで、理事長室の扉が激しくノックされた。

 そして「お、お戻りになりましたか!」と慌てて話す教員から放たれた一言がこれである。これには流石のアメリアも平静を保つことができず、手にしていた書類を床一面にぶちまけた。

「……話についていけないのだけれど。何だって?」

「ですから! リナリー・エヴァンスが『|5番手《フィフス》』になったという話です!」

「……まさか、どうやって」

 教員の過半数から決闘の承認を得られたわけではないだろう。そうなると、思い当たる理由は1つしかない。

「登校途中に絡んできた元『|5番手《フィフス》』であるオリバー・ブラウンを文字通り一蹴した、と。目撃証言も多数あり、もはや疑いようがありません。彼は決闘を承諾して敗北しました」

「……」

 アメリアは思わず天を仰いだ。ようは、『|番号持ち《ナンバーズ》』の一角が自分から喧嘩を吹っ掛けて見事に玉砕したということだ。これがなんと入学した登校初日の出来事である。

「契約詠唱科から2人目が現『|番号持ち《ナンバーズ》』入りしたということで、契約詠唱科の塔は今でもお祭り騒ぎだそうで。止めるべきはずの教師陣も混じって今日1日はほとんど授業になりませんでした」

 当然そうなるだろう。
 そもそもの敷居の高さから契約詠唱科は呪文詠唱科に後れを取りやすい。どちらかというと研究肌の魔法使いが多く在籍する科である。実践でも呪文詠唱科に負けず劣らずの結果を出せているのは、今のところ最高学年にして『|2番手《セカンド》』の座にいるクロエ・フローレスくらいだ。

 普段肩身の狭い思いをしていた契約詠唱科の教師たちも同様だ。契約詠唱科は、卒業後に実戦で幅広く活躍する院生を輩出しにくい。アメリアとしては差別しているつもりはないが、契約詠唱科の教師陣たちが抱いていたコンプレックスを一瞬で払拭した起爆剤に興奮するなと言う方が無理な話だ。

 決闘の段階では、リナリーは契約詠唱を習得していない。ただ、この際それは関係無かった。「契約詠唱科に所属する院生が『|番号持ち《ナンバーズ》』入りした」という事実が大事なのだ。契約詠唱科の教師陣は、これから契約詠唱に意欲を見せるリナリーにあれやこれやとテコ入れしてくるだろう。想像を絶する怪物が出来上がるのは時間の問題だった。

 もはや秒読み、いやむしろ怪物自体は既に出来上がっている可能性すらある。もともと怪物としての基盤は出来上がっていたのだ。後はどれだけカスタマイズしていくのかという話である。そう考えると怪物を作り上げるというよりも、もともと怪物だったリナリー・エヴァンスを契約詠唱科の教師陣が魔改造し始めたと表現した方が的確なのかもしれない。

 アメリアは王族護衛『トランプ』のハートから言われた言葉を思い出していた。

『奴は学習院内の序列を再起不能なまでに壊滅させる可能性さえ秘めている。扱いには十分注意するように』

 何を馬鹿なことを、とアメリアは鼻で嗤った。
 あの時は。

「ク、クーリングオフって何日間有効だったかしら」

「お気を確かに! 理事長!」

 よろめくアメリアを教師が支える。

『|番号持ち《ナンバーズ》』。
 それは在籍者数2000名を超える王立エルトクリア魔法学習院、上位5名に与えられる栄誉。この学習院における絶対的存在。まれにあるエンブレムを賭けた決闘でも、学習院の教師陣の推薦が無いものなら『|番号持ち《ナンバーズ》』がいとも簡単に撃退するのが普通だった。それも当たり前で、それほどまでに『|番号持ち《ナンバーズ》』と番外の院生の差は歴然としている。

 そして、本当にごくまれにある交代劇だってエンブレムを手にするのはほぼ最高学年である12年生の院生だ。過去に数度11年生や10年生の院生がエンブレムを手にしたことはあったが、8年生がエンブレムを手にしたという話はそれこそ前代未聞である。

「……い、一度話を聞いてみる必要があるわね」

「そうした方がよろしいかと」

 将来『|番号持ち《ナンバーズ》』入りが有望視されている自分の娘、クランベリーだって自重しているのか決闘を申し込んだことは無かったはずだ。

 そんなことを思いながらも何とかアメリアが口にした言葉に、教師はカクカクと頷いた。

「リナリー・エヴァンスは今どうしていますか? 契約詠唱科の塔で祭りに?」

 アメリアは「主役なんだから祭りに参加どころかもはや祀られているかもな」などと思いながらも尋ねる。しかし、教師は首を横に振った。

「契約詠唱科の塔にいるのは間違いありませんが、リナリー・エヴァンスは祭りに参加していません」

「え?」

「今は契約詠唱習得のため、魔法具との契約を行っているかと」

「……あぁ、そう」

 契約は放課後、という話はきっちりと守っていたらしい。
 変なところで律儀である。

 しかし。

「それでは、契約詠唱科は主役不在でお祭り騒ぎだと?」

「そうなります」

 契約詠唱科に在学中の院生を始め、教師陣までもが率先してリナリーを祭りに参加させていたそうだが、放課後になるや否や、リナリーは担当教師を引っ張って契約できる魔法具が保管されている場所に閉じこもったらしい。

「……契約が終了したら、理事長室まで来るよう伝えてもらえるかしら」

「わ、分かりました」

 ふらつきながらも理事長室の椅子に腰かけたアメリアに一礼し、教師が来た時と同じように慌ただしく去っていく。

 初日。
 入学した初日である。
 いきなり『|番号持ち《ナンバーズ》』の一角が陥落した。
 しかもそれを成したのは『契約詠唱科』の『8年生』と来た。

 前代未聞である。
 今後、学習院において語り継がれる武勇伝の1つとなるのは間違いない。
 入学の初日である。
 繰り返すが、入学の初日である。

 既に契約詠唱科は丸1日機能しなかったという。
 リナリー・エヴァンスがこの学習院にもたらすであろう影響力を、アメリアはまだ甘く見ていたということだ。ハートからあれだけ念押しされて、更に本人と面接することでそれなりに警戒を強めていたにも拘わらず、だ。

 ただ、よくよく考えて見れば、リナリーは何も悪い事などしていない。エンブレムを手にしたのは『|番号持ち《ナンバーズ》』の承諾を受けた上での決闘だったようだし、今も遊び呆けているいるわけではなく、お祭り騒ぎの中1人担当教師と魔法具を用いて契約中だ。

 むしろ、学習院のルールを順守し上を目指す英才である。
 注意すべき事など1つもない。「もう少し大人しくできないのか」という言葉は口にするべきではないだろう。それは上昇志向のある院生のやる気を阻害する行為だ。

「……私、エヴァンスを呼んで何がしたいんだっけ」

 1人取り残されたアメリアはデスクの上で頭を抱えた。

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リナリーss第5話

☆三行でまとまる、これまでのお話☆

クロエ「出直してきてちょうだいね」ニッコリ
リナリー「さっさと番号を狩ろうと思っていたけど、腰抜けだらけだと面倒ね」フゥ
アベリィ「……」ナニイッテンノコノヒト







 女子寮へ通じる扉の前で学生証をもう一度かざし、リナリーはようやく女子寮へと足を踏み入れた。扉が閉まったことを確認し、かつクロエやその取り巻きもいないことを念入りに確認した後、アベリィが口を開いた。

「駄目じゃないですか、リナリーさん! いきなりあんな質問をするなんて!!」

「……あんな質問?」

 責められる心当たりの無かったリナリーが首を傾げる。

「寮長のエンブレムが欲しいってやつですよ!!」

「あぁ……」

 気の無い返事をするリナリーに、アベリィは頭を抱えた。

「リナリーさん。確かに貴方はこれまでに前例のない8年生からの、それも途中入学という特例づくしの存在です。私は貴方の魔法を見たわけではありませんが、入試の成績から相当な腕の持ち主であることも理解しているつもりです。おそらく、私ではまったく敵わないであろうことも」

 長細い廊下をまっすぐ進み、エレベーターのボタンを押しながらアベリィは言う。3機あるうちの1つがそれに応えて扉を開いた。2人揃って乗り込む。アベリィは8階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まり、ゆっくりと上昇を開始する。

「ですが、言わせてください。貴方はこの学習院における絶対的な『|番号持ち《ナンバーズ》』の存在を軽く見過ぎています」

 リナリーは今後の活動方針を決めるためにした質問、というだけの認識だったのだが、アベリィが自分のためを思って言ってくれていることは分かったので、大人しく頷いて続きを促した。

「この学習院に在籍する約2000人の院生の上位5名。学習院が指定する最低限の単位さえ納めてしまえば、あとは自由にカリキュラムを組める英才。個人の研究室を所有でき、研究費も学習院持ちで思いのまま。他にも特別待遇の特典がごろごろ。当然、それだけの待遇を受ける面々です。貴方が想像しているより一回りも二回りも強い存在だと理解してください」

「それは『トランプ』のハート並みに強いということ?」

「なんで比較対象がこの国の最高戦力なんですか!? そんなのに比べたらゴミですよ!! はっ!?」

 壮大な爆弾発言をかましたアベリィが真っ青になって口元を覆う。エレベーターの電子音が鳴って扉が開いた。エレベーターから降りながら、リナリーがにやりと笑う。

「つまり『|番号持ち《ナンバーズ》』はゴミ、と。なるほど理解したわ」

「そこだけピンポイントにピックアップするのやめてもらえます!?」

 続いて降りてきたアベリィが涙目で叫んだ。

「で、どっち?」

 それを意図的に無視したリナリーが、エレベーター正面に張られた部屋のナンバープレート表を見ながら問う。「……こっちです」とアベリィがどんよりした口調で歩き出した。

「先ほどのは寮長さんだったから許されたんですよ。血の気の多い『|5番手《フィフス》』とかだったら、そのまま決闘にもつれ込んでしまったかもしれないんですから」

「なるほど。その手があったわね」

「……何の話ですか?」

 等間隔で明かりが灯り、床には絨毯が敷かれている。そんなホテルのような細い廊下を歩きつつ、アベリィが質問した。

「ん? わざわざ実績なんて積まなくても、私の挑発に乗ってくれる『|番号持ち《ナンバーズ》』を襲えばいいのかなって」

「私の話聞いてました!? 『|番号持ち《ナンバーズ》』を甘く見ないでくださいって言ったばかりなんですけど!!」

 やがて、1つの扉の前で立ち止まる。ナンバープレートには『823』と書かれていた。

「ここが私たちの寮室になります」

「……ルームメイトは何人なのかしら」

 リナリーの質問に、アベリィが首を傾げる。

「私とリナリーさんの2人ですよ?」

「じゃあ、中にいるのはお友達?」

「……え?」

 アベリィは扉のロック解除を行わずにノブを捻った。彼女の予想に反して扉はすんなりと開く。

「不用心ね。いくら全寮制の学校とはいえ、寮室には鍵をかけてから出かけなさいな」

「す、すみません」

 新人であるリナリーへ頭を下げたアベリィが、恐縮しながら室内へと入った。その後にリナリーも続く。寮室はそこまで広いというわけではない。入ってすぐ右手にトイレと風呂場。その先に空間が広がっている。

 二段ベッドが右端に寄せて設置されており、それが空間の4分の1を占めていた。そして正反対の位置に並ぶ形で勉強机が2つ。机とベッドの間に丸テーブル。一番奥に窓を背にする形で小型テレビが置かれている。

 そして、その丸テーブルでくつろぐ2人の少女。

「……ベッキー、アン」

 その2人の名をアベリィが呼んだ。

「やっほ。お邪魔してるよ。ここで張ってれば間違いなく噂の新入生に会えると思ってたからさ」

「なら、部屋の外で待っていればいいじゃないですか。勝手に入っちゃだめですよ」

「勝手に入られたくないなら、ちゃんと鍵はするべきじゃない? ドジっ娘のアベリィちゃん」

「うぐっ!?」

 アベリィが何かに刺されたジェスチャーをした。カラカラと笑う少女が立ち上がってリナリーを見た。

「勝手にお邪魔してごめんな。アベリィの友達で、契約詠唱科の8年生のレベッカ・ウィルソン。ベッキーで良いよ。で、こっちのちっさいのが」

「ナンシー・クラークです。アンと呼んでくださいです。同じく契約詠唱科の8年生です。よろしくです」

 リナリーの身長も高いわけではないが、ナンシーと名乗った少女はそのリナリーの肩くらいまでしかなかった。レベッカはくせっ毛のプラチナブロンドの髪をショートに、ナンシーはくすんだ金髪を肩まで伸ばしている。

「リナリー・エヴァンスです。リナリー、と。よろしく」

 リナリーも軽く頭を下げた。

「じゃあ、軽くお茶会でも開きますかー」

 自己紹介が終わったところで、レベッカがそんなことを言い出す。そして勝手にテレビの下の戸棚を漁って準備を始めた。

「ここ、アベリィの部屋だったのよね? なぜベッキーが手慣れた手つきでティーパックの準備を始めているの?」

「アベリィは良く鍵を閉め忘れるので、ここがいつの間にか私たちのたまり場になっていたです。勝手知ったるなんとやら、です」

 ナンシーの説明を受け、リナリーは呆れた視線をアベリィに向ける。アベリィは顔を真っ赤してそっぽを向いた。リナリーの中でアベリィの評価が『おどおどした子』から『どじっ娘』に進化した。







「はぁぁぁぁぁ!? 入寮直後にクロエ寮長に喧嘩売ったぁぁぁぁぁ!?」

「……それはびっくりです」

 ティーパックで淹れた紅茶を丸テーブルに4つ用意し、ささやかなお茶会が開催された。話題の中心は、当然新参者であるリナリーとなる。そこでアベリィは、愚痴をぶちまけるかのように先ほどあった顛末を暴露していた。

「喧嘩を売ったとかご挨拶ね」

「いやいやいや、それは喧嘩を売ったってとられても仕方ないって」

 何やらご立腹なリナリーに、レベッカが苦笑する。

「どのような意図があったにせよ、気を付けるべきです。クロエ寮長は契約詠唱科の希望ですから」

「希望?」

 疑問符を浮かべるリナリーにナンシーが頷いた。

「現在の『|番号持ち《ナンバーズ》』に、契約詠唱科在籍者はクロエさんしかいないです」

「あら、そうなの?」

「そりゃそうだよ。契約詠唱に必要な魔法具を自前で用意できるお金なんて、普通は調達できないんだからさ。学習院が用意してくれるのはほとんどが基礎魔法のみ。それじゃこの学習院の上位5人になんて入れやしない。自前で強力な魔法が使える魔法具を用意できるお金があって、かつ魔法の才能もずば抜けている。そんな人間、そういやしないよ」

 レベッカはそう言い切ってからティーカップを傾ける。アベリィもレベッカの言い分に頷いた。

「ベッキーの言う通りです。魔法の才能、そして莫大な財産。どちらが欠けても契約魔法の使い手にはなれませんから」

「なるほど」

 だからこそ、契約詠唱方式よりも呪文詠唱方式の方が普及しているのだ。

「じゃあ、3人はどうして契約詠唱科に?」

 リナリーの質問に、3人の少女はお互いの顔を見合わせた。

「え? だってせっかく超高級な魔法具を無料で契約させてくれるって言うんだよ? 契約詠唱科の方がお得な感じがするじゃん」

 と、レベッカ。

「私はもともと魔法が得意ではありませんから、将来は実戦魔法使いではなく、研究職を目指そうと思っています。ですので、見聞を広める意味で」

 と、アベリィ。

「お金があったからです」

 そしてナンシーである。

「アンが一番不純な理由ね」

「ははは、だろ? こいつ、こう見えてお嬢様なんだよ」

 レベッカが笑いながら隣に座るナンシーの頭をぐしゃぐしゃにした。ナンシーは嫌そうな顔をしながらも、視線をリナリーに向ける。

「それで、リナリーはどういった理由なんです? 噂では、入学試験は呪文詠唱方式だったと伺っているです」

「お、それそれ。私もそれ気になってた」

「私も気になります」

 ナンシーの質問に、レベッカとアベリィも喰い付く。隠す必要もないので、リナリーは淡々と答えを口にした。

「見聞を広めたいから、という理由だから、アベリィが一番近いかもしれないわね」

「じゃあ、どこかのお嬢様だからとかではなく?」

「私、孤児院育ちだから。親もいないしお金もない」

 レベッカの質問に、リナリーは偽りなく答える。

「あ、なんかごめん」

「気にしないで。気にされるほうが気になるわ」

 そう言って、リナリーは紅茶を一口飲んだ。

「じゃあ、リナリーは学習院が用意した魔法具で契約するです?」

「そうなるわね」

 さっさと話題を変えようと質問してきたナンシーに、リナリーはにこやかに頷いた。それを聞いたアベリィががっくりと肩を落とす。

「……それでよく寮長さんにエンブレム欲しいとか言えましたね」

「あら? それじゃあ寮長は学習院が用意した魔法具で契約したわけではない?」

「そうですね。アンと一緒でご自身の実家が用意した物で契約していますから、高難度の魔法も発現できますよ」

「なるほど。いいわね。その方が燃えるわ」

 エントランスで対峙したクロエの佇まいを思い出し、リナリーが好戦的な笑みを浮かべた。

「おぉっと。リナリー、可愛い顔して結構物騒なことを言うんだね」

「そう? 可愛いで言うならベッキーだって十分可愛らしいじゃない」

「よしてくれ。私に可愛いなんて似合わないよ。口調もこんな感じだしね」

 リナリーからの称賛に、レベッカは照れたように手をぱたぱたと振った。「ベッキーは十分可愛いです」「そうですよ。もっと自分に自信を持ちましょう」「やめてほんとにそれ以上やめて」と3人でキャイキャイやりだしたのを眺めながら、ふと思った疑問をリナリーが口にする。

「3人とも仲が良いようだけど、同じクラスなのかしら」

「え?」

 リナリーからしてみれば素朴な疑問だったのだが、なぜか3人ともびっくりして固まってしまっていた。

「私、何かおかしい事を言ったかしら」

「いや……、おかしいって言うか、何も聞いてないの?」

 レベッカからの逆質問に頷く。その反応を見た3人がお互いの顔を見合わせた。そして、代表してアベリィが驚愕の事実を口にする。

「契約詠唱科の8年生は、今ここにいるメンバーで全員ですよ?」

「え?」

 今度はリナリーがフリーズする番だった。

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リナリーss第4話

☆三行でまとまる、これまでのお話☆

リナリー「魔法使いとして高みを目指します」
アメリア「なぜ今頃になって来たし」
アベリィ「……優しい人だといいなぁ」ドキドキ←扉の外で







 エルトクリア魔法学習院は、学習院と言いつつも外観は西洋風の城に近い。

 両サイドにとんがり頭の塔があり、それぞれが『呪文詠唱科』と『契約詠唱科』の領分となる。共同で使う施設は、中央の一際大きな建物・共同塔に集約している。魔法を使う実習ドームなどがそれだ。それぞれの塔にも小規模なものはあるが、ドーム状の大規模なものは共同塔にしかない。そして、学習院の教員室があるのも共同塔。但し、教員個人の研究室は両サイドの塔にそれぞれ分散している。

 などなど。

 アベリィの説明に耳を傾け、相槌を打つリナリー。2人はのんびりと学習院の裏手にある寮塔を目指しているところだった。

「エヴァンスさんは、どうして契約詠唱科を志望されたんですか?」

「リナリーでいいわよ、ベル。どうして、とは?」

「あ、それじゃあ私のこともアベリィで。えっと、リナリーさんのことは随分と噂になっていまして」

「……噂?」

 その単語に、リナリーが端正な眉を吊り上げる。

「座学は全教科満点で、うち一科目は限界突破。実技も計測不能を繰り返し、対人戦では教師を完封負けに追い込んだって」

「……この学習院にプライバシーとやらはないのかしら」

 少し不機嫌そうに口を尖らせるリナリーにアベリィが苦笑した。

「噂になるのは仕方が無いと思います。この時期に入学試験を受ける人なんて、これまでいなかったみたいですから」

 アベリィが言う通り、エルトクリア魔法学習院が新入生を迎え入れてから少なくない月日が経過している。

「それに、リナリーさんが試験を受けた日も、普通に私たち授業はありましたし」

「敬語もいらないわよ? あぁ、休みの日にやったんじゃなかったのね」

 軽くため息を吐きつつ、リナリーは肩を竦めて見せた。

「えっと、敬語は癖ですので。あ、あと加えて『トランプ』の方からの推薦だとか」

「そこまで広まっているわけね」

 意外と面倒くさいことになるかもしれない、とリナリーはこの段階でようやく思い始めた。自らをハートと名乗った金髪美女を思い出す。リナリーが初めて加減せずに魔法球の打ち合いができるかも、と思えた相手である。

 そんな感想を抱ける時点で何かがズレていることに、この少女はまだ気付いていない。

「なんでそんな淡白なリアクションなんです!? あの『トランプ』ですよ!? この魔法世界エルトクリアにおける絶対的な存在!! 憧れの大英雄!! その一角なんですよ!? むしろどこで知り合ったんですか!?」

 白けた調子のリナリーにアベリィが喰い付いた。「絶対的な存在は王じゃないかなぁ」という当たり前のつっこみを省略し、リナリーは引き気味に答える。

「まあ、成り行きで」

「成り行き!! 通学途中で大当たりの宝くじを拾っちゃったくらいの確率じゃないですか!!」

「……ここ寮だから行き帰りで宝くじを拾うことなんてないんじゃないかしら」

「つまり本来なら0%ってことですよ!!」

 ほぼゼロ距離で喚くアベリィからリナリーが物理的に一歩引いた。

「あぁ、そう」

 それだけ答えるのが精一杯である。そこでどれだけ自分が熱くなっていたのかに気付いたアベリィが、頬を赤く染めながらそっと離れた。

「と、というわけで。それで噂もあっという間に拡散してました。で、その熱は消火することもなく再燃しています。呪文詠唱で入学試験をぶっち切った英傑が、なぜか契約詠唱科を選択したって」

「絶対に私の事をストーカーして故意に噂を拡散させている奴がいるわよね。この学習院で一番最初にやることが決まったわ。まずはそいつを潰す」

「何を急に恐ろしい事言い出してるんですか、リナリーさん。駄目ですよ、冗談でもそんな物騒な事を言っては」

 リナリーとしては本心を口にしたのだが、アベリィは現時点ではまだリナリーについて「入学試験をぶっち切って特例で飛び級をした」という事実しか聞かされていないために、冗談として受け取った。

「それに、そういった情報を小出しで流しているのは先生たちですよ。多分、私たち在学生のやる気を出させるためだと思いますけど」

「ふぅん」

 その話を聞いて噂の拡散源へ完全に興味を失くしたのか、リナリーの口からは気の無い相槌だけが漏れた。







 城のような学習院の裏手にある1本の塔。寮塔は選択科目による区別はされていないようだった。アベリィに促され、リナリーが真新しい学生証をかざす。軽快な電子音が鳴り響き、ロックが外れた音がした。この原理は魔法では無くICカードのようなものだ。

 扉のすぐ奥は、リナリーの予想以上に広いエントランスになっていた。頭上にはシャンデリア、床には深紅の絨毯と、学生の寮塔とは思えない煌びやかな造りになっている。左右には柔らかそうなソファや重厚な木造りのテーブル、テレビなどが設置されており、談話スペースのようになっている。現に、数人の院生が思い思いにくつろいでいた。いくつかの視線は値踏みするかのようにリナリーへと向けられていたが、リナリーは特に反応を示さなかった。

 エントランスの奥には、階段ともう1つの扉。

「ここは男女兼用の共同スペースです。奥に見える階段を上ると男子寮になりますから、女子は立ち入り禁止です。ここからは見えませんが、つきあたりを左に曲がると男女兼用の食堂があります。右に曲がると男子の大浴場がありますが、そちらも当然女子は立ち入り禁止です。女子寮は、階段の隣にある扉の向こうになります」

「なるほど」

 アベリィの言葉に、リナリーが頷いた。そのタイミングで、遠巻きにその様子を窺っていた1グループがこちらに近付いてきた。アベリィが「あ、寮長さん」と口にし、1人の女性がそれに微笑みで応える。その視線は、すぐにリナリーへと向けられた。

「リナリー・エヴァンスさんね?」

「……そうですが」

「そう身構えなくても大丈夫よ。私は12年生のクロエ・フローレス。アベリィが言った通り、今は女子寮の寮長を務めているわ」

 12年生ということは、エルトクリア魔法学習院の最高学年だ。魔法世界内では珍しい真っ黒な髪をストレートで下した女性へ、リナリーは丁寧にお辞儀をして返した。

「本日よりお世話になります。リナリー・エヴァンスです。よろしくお願いします」

「え……、ええ、よろしく」

 礼儀正しいその反応に若干タイムラグを生じさせたクロエだったが、すぐにそう口にする。彼女は寮長という立場から、リナリーに関する情報を前以って院長アメリアから聞かされていた。問題児かもしれない、という情報である。

 情報とは違って良い子だ、と判断していたクロエに、リナリーが口を開く。

「寮長は『|番号持ち《ナンバーズ》』ですか?」

 その質問に、クロエの後ろにいた2人の少女はもちろん、リナリーの隣にいたアベリィも目を丸くした。

「あら、知っていたの? そうよ。私はこの学習院における『|2番手《セカンド》』を任されているわ」

 大きく主張された胸元のポケットから垂れ下がっている金色のチェーンを、クロエが抜き取る。振り子のように揺れるその先端には、メダルのような物が付いていた。

「エンブレム。学習院が選定した上位5名に与えられる称号よ」

 金のメダルには細かな装飾が施されており、その中央には『Second』の文字が刻まれていた。

 そのメダルを見たリナリーの目に妖しい色が灯る。

「なるほど、なるほど」

「リ、リナリーさん? 何がなるほどなんですか?」

 その様子に違和感を感じたのか、隣に立つアベリィがおそるおそる自らのルームメイトの名を呼んだ。

「寮長、続けて質問してもよろしいでしょうか」

「あら、何かしら」

 一部の隙も無い笑みを浮かべてクロエが先を促す。

「私がその『|2番手《セカンド》』のエンブレムを欲した場合、どのような手続きを踏めば良いのでしょう?」

「ちょっ!?」

「い、いきなり貴方は何を!?」

「ご自身がどのような発言をしているのかお分かりですの!?」

 過剰に反応したのはクロエではなく、アベリィとクロエの後ろにいた少女2人である。特に2人の少女は過剰と言うよりももはや過激と言っても過言ではないほどの反応を示した。

「こらこら。淑女たるもの、そう声を荒げてはいけないわね。エヴァンスさんは質問しただけよ?」

 当のクロエはこの調子である。談話スペースから遠巻きに成り行きを見守っていたいくつかのグループも、それで落ち着きを取り戻したようだった。周囲の空気が元に戻ったことを確認し、クロエが改めて口を開く。

「エンブレムを手に入れるための手順だったわね。大きく分けて2つあるわ。1つめは、学習院で年に2回行われる定期試験で結果を出す。但し、定期試験は学年によって当然内容が異なり、高学年であればあるほど難易度も上がる。よって、必然的に最高学年である12年生の面々が取得しやすくなるわ」

 それが正規の手段と言うことだ。

「2つめは、エンブレム所持者に決闘を申し込み、勝利する。学年が下の子でも、実力さえあればエンブレムを獲得できるようにするための制度ね」

 その説明に、リナリーは端正な顔に妖艶な笑みを浮かべた。激昂していたはずの2人の少女ですら見惚れてしまう笑みを向けられても、クロエは動じない。逸るリナリーをやんわりと手で制する。

「但し、決闘を成立させるためには条件があるわ。決闘を申し込まれたエンブレム所持者が、それを受諾した場合」

 その条件を聞いたリナリーの表情から笑みが消えた。

「それでは保身に走る『|番号持ち《ナンバーズ》』からはエンブレムを奪えない、と」

「さっきから聞いていれば貴方と言う人はっ――」

 リナリーの言葉に再び激昂した取り巻きの少女を、クロエが手で制した。

「エヴァンスさんの言う通り、この条件だけでは基本的に『|番号持ち《ナンバーズ》』との決闘は成立しないでしょうね。私も貴方の申し込みを受諾するつもりはない。受諾する意味が無いからね」

 既に学習院の2番手に登り詰めているクロエからすれば、リナリーの決闘を受けるメリットは少ない。己の力を誇示できる、分を弁えない新参者を叩きのめせる、といったメリットも無くはないがクロエを動かすには足りなかった。

「だから、もう1つ別の条件があるわ。それは、対象となるエンブレム所持者に決闘を申し込むことを、学習院の教員の過半数に受諾させること。教員から過半数の賛成を得られると、その対象となるエンブレム所持者は決闘を拒否できなくなるの」

「なるほど」

 先ほどリナリーが言ったような理由で決闘が不発にならないための措置、ということだ。

「もっとも、教員の過半数から賛同を得るというのもかなり厳しい条件よ。特に学年が下の子はね。実績を積んだ上で『この学生なら勝てるかもしれない』と思わせないといけないのだから。私が言いたいこと、分かるかしら?」

「無名の状態で挑めるほど、安くはないということですね」

「そこまで挑発的な言動をするつもりはないけれど、そういうことよ」

 柔らかな笑みを浮かべたまま、リナリーの言葉を肯定するクロエ。

 しばしの間、両者は無言で見つめ合う。突如として訪れた沈黙に、アベリィとクロエの後ろにいる2人の少女、そして談話スペースにいたいくつかのグループすらも固唾を飲んで状況を見守っている。

 その沈黙を破ったのはリナリーだった。

「勉強になりました。お手間を取らせてしまい申し訳ありません。今後ともよろしくお願い致します」

 腰を折り、優雅に一礼する。

「構わないわ。寮長としての仕事だもの。これからも気軽に声をかけてね、リナリー」

 にこやかに、ちゃっかり自分のことを名前で呼んだクロエにもう一度頭を下げ、リナリーはその場を辞することにした。

「お待たせ。それじゃあ、寮室に案内してもらえるかしら」

「え? あ、はい。分かりました」

 いきなり話を振られたアベリィは、かくかくした動作でリナリーに頷いたのだった。

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